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叶い。


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うわ。
浩平は目の前の、恐ろしく綺麗な少女を前に、あんぐりと口を開けたまま、
「私が、鹿沼葉子です」という、落ち着いた声を聞くに至った。
はぁ、と、溜息とも返事ともつかぬ声を出すと、その少女は、ええ、と返事を返した。
――無言である。長森も七瀬も、口をあんぐりである。
少女は仮面のような表情を崩さぬまま、そこに突っ立っているばかり。
いや、というか、何を話せば良いんでしょうか、神様?
無口少女が苦手なわけではないが――というか、この少女の雰囲気は何処か里村に通じるものがある。
「……私を殺せば、取り敢えずミサイルで吹き飛ぶと云う事は無いですよ」
少女が出し抜けに云った。
浩平はびくり、と身体を震わせた。
――なんて、冷たい瞳。
「アホかっ」
思わず浩平は叫んでいた。
「アホ――ですか」
「アホだっ。何であんたを殺さなくちゃいかんのだっ」
「私は、高槻を殺しにいきます。――そうしたら、あなた達は吹き飛ぶんですよ」
「……そんな事が嘘だという位オレにだって判るよ」
鹿沼葉子は、目を丸くして浩平の顔を覗いた。
「高槻とか云う変態ヅラが、殺されたくないから云った嘘に決まってる。
 あんな変態ヅラが死んだくらいで、このゲームを終わらせるのだとしたら、
 こんなゲームやる意味がない。多分、あの変態ヅラは重要な人間じゃない。
 もっと大きな意図が、裏で介入している、筈だ」
それが何かは判らないが。
「――思ったより、ずっと賢い人のようですね」
そうです、多分、あれは嘘です。葉子は――柔らかく微笑んで、そう云った。

変態ヅラとは上手く云いましたね――葉子はくすくすと笑った。
「このゲームが企画された意図は知りませんが――郁未さんや私が巻き込まれている事を考えると、
 FARGOがこのデスゲームの企画者だとは考えにくいです」
「あのっ、ふぁーごって」
長森が訊ねると、やはり葉子はにこりと微笑って、宗教団体です、と答えた。
「大体、本当にミサイルが撃ち込まれたとしてもさほど問題ではない。
 私や郁未さんの力が解放されれば、そんなもの大した驚異でもないから」

マジか。浩平は呟いてみた。
「マジです」
葉子はVサインをした。なかなかノリのいい人である。
「だから、高槻は私達が怖い。私達が武器を持って攻めてくるのが恐ろしい」
――だから、私はあいつを殺しにいくんです。
七瀬と長森が殆ど同時に唾を飲み込む音が聞こえた。
「ち、力……出てないんですよね、今は。力ってよく判らないんですけど」
長森は、恐る恐るそう訊ねた。
「その通り。あなたも賢い人です。何やら力を抑制する結界が働いているんです」
葉子は小さく溜息を吐いたが、
「しかし、これで充分です」と、バッグの中に入っていた――
「槍?」
七瀬が呟くと、折り畳み式の槍を展開しながら、そうです、と笑った。
「そ、そんな槍一本で、重火器に立ち向かうんですかっ」
「――ええ。力が解放されていない、と云っても」
云うと、葉子は跳ねた。驚き、目を丸くする七瀬の、その身長くらいまで飛んだ。
「このくらいの運動神経は、残っていますから」
くるくると前方宙返りをしながら、たん、と着地すると、葉子はまた笑った。
浩平はその運動神経にも驚いたが、それより先に――
「白か」と、頭を掻きながら呟くと、
「浩平のアホっ!」
「折原のアホっ!」
という、なんとも息のあったツッコミを受ける事になった。
「ぽっ」
と、葉子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「――次の放送が流れたら、私は高槻を殺しにいきます。それまでに、天沢郁未さんという方を見かけたら、
 鹿沼葉子が、高槻を殺しにいきます――と云っていたと、そう告げてください」
立ち去ろうとして、葉子はもう一度振り返った。
「あなた達のように、希望を持っていてくれる人が居てくれて良かった。
 ――高槻を殺す甲斐があるってものです。おかげで私もだいぶ救われました」
そう微笑った。そして、槍を片手に森の陰に消えていった。

「不思議な人だったね――あんな綺麗な人、初めて見た」
長森はそう呟いた。浩平は頷いて、
「すごくスタイルのいい美人だった……」
「アホっ!」
すると、案の定七瀬のツッコミを再び受けた。
「そういえばっ!」
長森が顔を赤くして声を上げた。
「浩平、さっきわたしのおっぱい揉んだでしょっ」
「ば、ばかっ、ああしなけりゃお前も俺たちも危なかったんだよっ」
「他に手はなかったのっ? ……もう、顔から火が出るほど恥ずかしいよおっ」
「オレだってお前の貧乳なんか揉んだって何にも嬉しくないんだよっ」
「貧乳は関係ないでしょっ」
「大体お前の貧乳なんか小さい頃から何度も揉んできてるわこのばかっ」
「うう……最悪だよ、浩平っ」
「お前の駄乳なんか揉んだオレの気持ちにもなれっ! さっきの葉子さんの乳だったらともかく」
「浩平のばかっ! ばかばか星人っ!」
「お前の方がばかじゃないか! 駄乳〜、駄乳星人っ〜!」
……言い過ぎである。いや、駄乳どころか、実際長森のものは素晴らしかったんだが、今更後には退けんっ。
「何だよ、浩平なんて嫌いだよっ」
「おー、嫌え嫌え、長森の駄乳なんて揉まされたオレの手が可哀想だ〜ああ可哀想なオレの手」
「ばかぁっ」
……どうやら怒らせてしまった。というか、少し泣いている。
「最低ね、折原。乳揉んでおきながら」
「ご、ごめん、長森」
「ふんっ、どうせわたしは駄乳だもんっ」
「い、いや、冗談だっ、お前の乳は町内一、いや日本一、いや世界一だっ」
「そんな事云われても全然全然嬉しくないよっ」
「じゃ、じゃあ長森の乳は宇宙一だっ」
「そう云う問題じゃないよっ!」
……まったく暢気な状況である、と、七瀬は一人思った。

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