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修羅


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一人の足音と、それに僅かに遅れて機械の駆動音。
先を行く人物の足取りはおぼつかない。
眼差しは既に虚ろ、顔面は蒼白だ。
恐らく、この男の命、そう長くはないだろう。
だが、それでも…九品仏大志は歩みを止めない。
「吾輩の命は…あさひちゃんの物……あさひちゃんを狙う輩は……我輩が……排除する…」
すでに意識も朦朧としているのだろう、大志は先ほどからこの言葉をうわ言の様にぶつぶつと呟くだけだ。
その心に残るのは、あさひへの愛と、それを狙う輩への殺意のみ。
修羅が、歩く。獲物を求めて。

そして、修羅は、修羅を呼んだ。

「…………」
気がつくと、目の前に一人の影。
暗がりの中で、それがにやりと口の端を吊り上げたのを見えた。
大志は本能で察知した。
奴は危険な存在だ、と。
「ゆけッ!先行者」
今の状態での精一杯の声を絞り出し、大志が攻撃を指示する。
しかし、聞こえたのは中華キャノンの発射音では無く、爆発音だった。
「なッ……!」
大志は驚愕の表情で先行者だったものを見る。
その機体からは火の手が上がり、ばらばらと部品が溶け、崩れ落ちて行く。

相手の男−柳川裕也は余裕の表情を浮かべ、得意げに語り始めた。
「気付かなかったのか?俺がこれを仕掛けていた事に」
と、掌にプラスチック爆弾をぽん、ぽんと跳ねさせている。
「……くッ」
大志は歯軋りした。
柳川は続ける。
「そのロボットには大層な武器がついていたようだが、そうなってはただの鉄屑だな。
これで貴様の勝てる見込みは、万に一つも無くなったと言う事だ…ククク」
それを聞き、大志の表情が緩む。
「フン、覚悟を決めたか?」
柳川が一歩一歩歩み寄ってくる。
大志はきっ、と柳川を睨み付け、笑みさえ浮かべ言い放った。
「…ならば、それを覆して見せれば、良いのだろう?」
その刹那、大志は跳んだ。
満身創痍のこの体のどこにそんな力が残っていたのか、本人にも分からなかったが、大志は絶叫する。
「あさひちゃんに牙を向ける不届き者は、吾輩が全員始末してみせぇぇぇぇるッ!!」
しかし。
柳川の読みは、残酷なまでに大志の行動を予測しきっていた。
柳川の袖元から覗くスペツナズ・ナイフの存在に大志が気付いたときには、もう遅かった。

「ぐ…………ッ」
密着した状態となった二人。
大志の胸には、ナイフが突き刺さっている。
冷徹な笑みを浮かべる柳川。
「誰を守るのかは知らんが、相手が悪かった様だな……」
柳川の高笑いを聞きながら、闇に落ちて行く大志の意識。
(死ぬのか…吾輩は……愛する者に牙を剥く者一人始末できず…)
腕に力が入らない。足ががくがくと震える。
目が霞む。意識が切れそうになる。
だが………。
(…………いや!)
「吾輩はッ!まだ死ぬわけには……いかんッ!!」
正真正銘、最後の力を両腕にこめる。胸の出血が一層激しくなる。
柳川が一瞬怯む。その一瞬の隙に、大志はプラスチック爆弾のリモコンを柳川から奪い取る。
「グッ……しまった!!」
柳川の表情から余裕が消え、見る間に焦りと怯えに変わって行く。
「フッ、プラスチック爆弾をわざわざ見せびらかす為に一個持っていたのが命取りになった様だな」
大志は血を吐き出して、真っ赤になった唇をニヤリ、と吊り上げた。
「……くッ、良いザマだな。何十人も居るであろうあさひとやらに牙を向ける者の一人でしかない俺と心中とはな」
精一杯の去勢を張って、柳川もまた笑う。が、怯えの色は隠しきれなかった。
大志は顔を上げ、柳川を睨み付ける。
「…違うな、あさひちゃんに牙を向ける内の一人であるお前だからこそ、吾輩の死にも意味がある!」
「ひ……ッ!」
柳川は慌ててプラスチック爆弾を投げ捨てようとするが、もう遅い。
カチリ、と渇いた音が響き、そして辺り一帯が閃光に包まれた。
(勝手な頼みかもしれんが……あさひちゃんの事は頼んだぞ、同志和樹よ……)
自分の肉の焦げる匂いを感じつつ、大志は思ったが、それもすぐに出来なくなった。

後に残ったのは二つの消し炭のみだった。
表情など確認出来ようもないが、それでも片方…九品仏大志だったものの顔は笑っている様に見えた。

034 九品仏大志
098 柳川裕也 死亡
【残り82人】

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