「人だ……」
沙織は、ハサミを強く握りしめながら呻いた。
「殺さなきゃ死ぬ……殺さなきゃ死ぬ……」
何度も自分に言い聞かせる。人を殺す恐怖よりも、自分が死ぬかもしれない恐怖の方が勝っていた。
暗くて良く見えないが、相手は何か剣のような武器を二本持っているようだ。だが、もう他の人間を捜す時間は無い。
躊躇は死に繋がる。沙織は、一気に走り込んだ。
「やあああああっ!」
刀を構えた相手に、一気にハサミを突き出す。
「うわわ」
相手は、緊張感の無い声をあげながら、刀の根本でそれを弾いた。
一呼吸後に迫ってきた刀を何とかかわしながら、何とか体勢を整える。
「行くよ」
やる気のない声と共に、白刃が閃く。沙織は持ち前の運動神経でそれをかわしながら、
身体を思い切り低くして水面蹴りを放った。
「あっ!」
初めて相手が大声を出した。転ばす事は出来なかったが、確かに大きく体勢が崩れた。
「死んで! お願い!」
目をつむりながら、沙織はハサミを相手に突き刺した。
「うっ」
くぐもった悲鳴。しかし同時に、自分の肩にも灼けるような痛みを感じた。
「……つっ!」
相手が手放した刀が、自分の肩にぶつかったらしい。深くは無いが、鋭利な痛みだった。
沙織は素早く刀を奪い、飛び退いた。相手が倒れた事を確認し、反転した。
「やった、これで助かる……」
暗い喜びを感じながら、沙織は言葉とは逆に泣いていた。
人を、殺した。自分が、助かる。
涙の理由は、考えるまでも無かった。