眠り。
「指すま、3」
「指すま、2、あ、抜けっ!」
「指すま、1、ああ、もう、あげてよ折原」
「うるさい、指すま、0! よし、オレも抜け〜! 七瀬見張りな」
「……くそう」
まったく、本気で暢気だなあと思いながら、七瀬は見張りに立つことになった。
指すまなんかで見張り決めていいものか? というツッコミをいれたくなったが、
「七瀬は漢らしい奴だと思っていたのに」と、折原に落胆されるのが非常に腹立たしかった。
「って、あたしは乙女よ! 漢なんて比喩はあまりに似合わないわ!」
――いけない。横で眠っている二人が目を覚ましてしまうかもしれない。
こんな真夜中だ。折原はともかく、瑞佳は体力を使い果たしているはずだ。
あたし? あたしは無敵よ、徹夜なんて屁でもないわ。なめないでよ、あたし七瀬よ?
誰に云ってるんだろう。七瀬は哀しくなった。
一応、と云う事で、七瀬は銃を持たされていた。思ったより重い。
引き金を引けば、ぱんって音が鳴るのかしら。映画みたいに。
大好きなハード・ボイルド・アクション、見たいなあ……
……って、あたしは乙女よ! ローマの休日で感動してもレイモンド・チャンドラーの小説で感動しちゃ……
いや、大好きよ、大好きなんだけど、フィリップ・マーロウ。
読みたいなあ、長いお別れ。もう一回でも……。
……また独り言である。一人で過ごす夜とは果てしなく長い。
――もし、この果てしなく暗い銃口を、この馬鹿面して眠ってる二人に向けたら――
ふとそんな事を考えて、七瀬はぞっとした。
けれど、――いつかは、この二人も殺さなければならないのかも知れない。
今は一緒に行動しているけど、いつかは。
くすり、と七瀬は笑った。
殺せるわけがないわ。こいつらみたいな良い奴ら殺したら、寝覚めが悪いもの。
――つーか、普通は一人が寝て二人で見張りするものじゃない? と七瀬が不満げに呟くと、
「そりゃあそうさ。いくら七瀬が漢でも、一人で見張りはさせられない」
と、浩平は片目を開けて笑った。
「お、起きてたのっ?」
七瀬が焦って云うと、浩平は笑いながら、
「当たり前だろ、なめないでよ、あたし折原よ?」
などと抜かしやがった。
――聞いてやがったのか、このアホっ。
「まあいいか……折原、お話しよっ」
「……おぅ」
――こうして、夜は淡々と過ぎていった。