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第一回目の定時放送を聞いた後、太田香奈子(010)は幽鬼のごとく彷徨していた。
枝葉で切ったのか顔や手足に無数の擦過傷が出来ていたが、香奈子は何の痛みも感じていなかった。
ただ、からっぽだった。

瑞穂が死んだ。あんなおとなしい子が。
誰に殺されたかも分からない。
誰を恨めばいいのか分からない。
こんなくだらないゲームの主催を憎もうにも、自分は何にも出来やしない女子高生だ。
月島さんに会えることも……もう、期待していない。
あの人はきっと妹の瑠璃子さんだけを護ろうとすると思う。
だから太田香奈子は、邪魔だ。

「もう…終わりにしちゃおっかな…」

無力感に全身を支配されながら、香奈子は独り呟く。
支給された道具は赤旗だった。馬鹿馬鹿しい冗談。
銃や毒が当たればすぐにでもゲームを降りられたのに。
こんなものじゃ瑞穂のところへ逝くことも出来ない。
かと言って、殺してもらいに突っ込んでいくほど狂えもしない。
皆が皆銃やナイフを巧く使えるもんか。都合良く急所に当たるはずがない。
つまりは苦痛が長引くと言うことだ。
首を吊ろうが舌を噛もうが枝で胸を突こうが、上手くできる自信はない。
そんなのはごめんだった。
だって…紙で指を切っただけで、あんなにも痛い。

死にたいのに、死ねない。

どうしようもない矛盾を抱えたまま、香奈子は海の方へ歩いていった。
崖から飛び降りれば、死ねるかも知れないから。

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