「もうすぐだ。もうすぐ信頼できる人のいるところにつく」
背中にシュンを背負い走りながら、往人は言った。
「すいません……もう、もたないようです……」
「おい、何を言って」
「僕は……心臓の病気で入院中だったんですよ……
もう限界みたいだ……自分んことは、よく、わかります」
「なんだと……」
その内容は、往人の足を止まらせるのに充分だった。
「じゃあ連中は、入院中のお前まで……」
「病院を変わると言われて、車に乗せられ……気付いたら」
「……くそっ」
始めて、強い怒りを感じた。
今までは、あの呑気な田舎町の人間と一緒に帰れたらいい。
そう思っていた。
だが……
「このままじゃ、寝覚めが悪い」
「……戦うんですか?」
「……」
「そうですか……
僕を撃ったあの女の子、里村茜と言います。
彼女を、できれば、助けて欲しい」
思ってもいない申し出だった。
「彼女は、誰よりも深い思いに縛られている。
だから、彼女には殺すしかないんです。
彼女を……」
「……考えておこう……」
嘘だ。許すつもりは、毛頭ない。
強い目的があって動いているのは誰も同じだ。
その目的が衝突し、殺しあうことになるなら、躊躇はしない。
だが、とりあえずこの少年の前では、こう答えておいた。
「……ありがとう、嘘でも嬉しい……
僕は、氷上シュンと言います。名前、教えてくれますか?」
「国崎往人」
「……ありがとう……いい名前です」
「礼を言ってばかりだな?」
「はは、そうですね……」
それきり、喋らなくなる。
少し遅れて、背中越しの彼の鼓動が、停止した。
072氷上シュン 死亡
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