「…単独行動は、こういう時に困ります…」
手元にある時計型時限爆弾を見ると、もう11時を過ぎていた。
今まで規則正しい生活を送ってきたせいか、昼の疲れもあるせいで茜の体力は限界に来ていた。
だが単独行動の問題点、ゆっくりと寝ている余裕がないことが、茜を悩ませた。
不用意な場所で下手に眠ると、寝込みを襲われかねない。
複数の仲間をつくれば誰かが見張りに立つということもできるのだろうが、後の祭りだ。
「…馬鹿ですか、私?」
答える者は当然なく、漏らした声は闇にすいこまれるだけ。
溜息一つついて、茜は移動を開始した。
「…ここにしましょう」
辿り着いたのは、この島に唯一あるだろう百貨店。
入口も空いており、中は広く、それでいて月や星の明かりも届かない。
(…広い空間。月や星の明かりが届かない。ここにいれば、見つかり辛いはずです。
…同じ考えでここにいる人もいるかもしれませんけど、気にしたら負けです)
中に入り、寝場所を探す。
ひとしきり歩いて、目も慣れてくる。
次第に茜はおかしなことに気付いた。
(…百貨店なのに、人が『使っていた』気配がありません。
…どういうこと?)
食品売り場には食料はなかったが、それ以外のフロア――洋服売り場等――には商品がしっかり置いてある。
しかし、どこか綺麗すぎた。
かつて人々が賑わっていた名残りが、まったく感じられなかった。
(…まさか)
一つの可能性に気付く。
(…全部、このゲームの為だけに作られたの?
…そういえば、少しくらい大きくても、ここは孤島です。
…あんなに広い住宅街や、こんな百貨店があるはずありません)
茜は目眩を覚えた。
(…どれだけの資産が、このゲームに動いているの?)
結局茜は、洋服売り場の一画に陣取ることにした。
フロアの中心と思われる場所よりも、わずかにずれた所のカウンター。
エスカレーターと階段は、フロアの壁沿いに設置されていた。
壁沿いを周回される恐れもあったので、中に入ったこの場所を選んだ。
もちろん通路側でもない、歩かれる恐れがある。
よくよく考えれば無意味なことのような気もしていたが、言い出せばきりがなかった。
(…シャワーを浴びたいですけど、贅沢は言えませんね。
…眠いです)
手元には目覚まし時計もあった。
いつもの習慣で六時にセットする。
「…おやすみなさい」
そういって、目を閉じる。
かすかに感じた違和感を、無視しながら。
…………
…………
――ガバッ!
(…私、やっぱり馬鹿みたいです)
この目覚まし時計は時限爆弾だった。
六時にセットして鳴ったら、爆発する。
疲れていたとはいえ、そんなことも忘れていた自分に呆れた。
改めて時間を五時半にセットし、今度こそ眠りについた。
目が覚めた時、この悪夢が終わっていることを願いながら。
本当の夢の世界に入っていった。