お姉さん
「…おなかすいた。」
「…さっき食べたじゃない。」
服のすそを引っ張る繭に真琴はこたえる。
合流してから二人は、たびたびの休憩を取りながら神社のほうへ移動していた。
本来ならこんな見晴らしのいい場所にいるべきではないが、
この状況で暗い森の中にいる度胸は二人にはなかったのだ。
「みゅ〜。」
「こ、これは真琴のだからね!」
ものほしそうに見つめる繭から、食べかけの木の実を隠す。
「みゅ〜!みゅ〜!」
「あぅーっ、いたい、いたいってば!」
髪を引っ張る繭に、真琴は声を荒げてしまう。
「うぐっ、うぅっ、うぅ…」
途端に崩れだす繭の顔。慌てて真琴はなだめようとするがもう遅い。
「うわぁぁぁぁんっ」
「な、なによぅ。泣かないでよ。これ真琴のなんだから…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」
「あぅー…」
次第に大きくなる泣き声に、真琴の顔も崩れていく。目が潤んでくる。
『私だってこわいのに、心細いのに…』
『泣きたいのはあんただけじゃないんだからぁ!』
そう怒鳴りつけようと思って、思いっきり泣きじゃくろうとして、でも、
『だからお前はガキなんだよ。』
そんなからかう声を思い出した。
『私、ガキじゃない!』
真琴はそんな時いつもそいつにそういっていた。
そう、私はガキじゃない。私はお姉さんだ。
お姉さんだったら、どんなにこわくたって、どんなに心細かったからって…
『泣かない、泣けない、泣けるかっ!』
「しょうがないなぁ、ほら半分こしよ。」
だから、真琴はぐっとこらえて繭に言う。ちょっと涙目なのは愛嬌だ。
「みゅ〜?」
「ほら半分こ!」
そういって木の実を渡すと、繭はうれしそうにもそもそと木の実を食べ始める。
「あはは、ピロみたい。」
「ぴろ?」
「うん、真琴の猫だよ。」
「猫…」
「うん、猫。繭にもだっこさせてあげる。特別だよ。」
「みゅ〜、みゅ〜 」
すかっり泣き止んで嬉しそうな繭に、
「朝になったら探しにいこ!」
真琴も笑顔でこたえた。