朝餉。
住井護は、愛しの澤倉美咲の手を牽きながら、森の中を全速力で駆けていた。
息切れする、だが、早く潤を見つけて合流しなければ。
「ま、護くん、早い」
――愛しの美咲がそう云うのを聞いて、漸く住井は自分が夥しい汗を掻いていることに気が付いた。
「……ごめん、美咲さん」
愛しの美咲の声を聞くまで、自分がこれだけ焦っていることに気付かなかったのか、
と思うと、自分はまだまだだな、と思う。
「走ったからって潤に合流できるって訳でもないのにね。駄目だな、お姫様を疲れさせるような真似をするナイトなんて」
そう云うと、愛しの美咲は顔を赤くして俯く。
大方、自分のキザったらしい言い方が、聞いていて恥ずかしくなったのだろう。
だが、年上の人を口説くには、自分はいっそ道化のように馬鹿な男を演じれば良い。
そうするのが有効なのだと、住井は長年の経験で知っていた。
「……少し、休もうか」
そう云って、住井は愛しの美咲の手を強く牽き、森を抜け、浜辺に出た。
「良い風だねえ、素敵な海だ。ほら、遠くの空が白んできてるよ」
住井が指差すのを、美咲は呆然と見た。
――朝陽。
「どうしたの?」と訊ねる住井の言葉も入らない。なんて、素敵な風景なのだろう。
自分は寝坊屋だから、朝陽がこんなに素敵なことなど知りもしなかった。
……初めて、だ。――涙が流れてくるのを、止めることが出来なかったのは。
こんな綺麗な風景を、明日はもう見ることが出来ないかも知れない。
そんな、絶望を、確かに感じていたから。
それが、自分が巻き込まれた運命、だと。
涙を流す自分の顔を見て、住井は怪訝な顔をしたが、次の瞬間には
「……泣かないで」と、住井は微笑んで、美咲の頬を指で拭った。
初めて、その少年を、優しい子だと思った。
「ありがとう」と微笑むと、住井は少し赤い顔をして、「どういたしまして」と目を逸らした。
じゃり、という音が聞こえたのは、その瞬間だった。
住井は瞬時に振り返り、足音の主を見る。
「誰だっ!」――マシンガンを取り出し、住井が構えた先には――美咲の見知った顔。
――男。銀色の髪と、鋭い、大人の目を持った男。
「――緒方、英二」
美咲は、思わず呟いた。それは、ブラウン管を賑わす天才プロデューサー――緒方英二(012番)だった。