強さの価値は(前編)
あの、郁未さんと晴香さんを足して2で割ったような人が姿を消して、
それでも私、名倉由衣は呆けてそこに座り込んだままだった。
「似てたなぁ、あの人。」
容姿や物言いだけじゃなくて、その目。
強いけど、どこかせっぱ詰まった、余裕のない目。
FARGOでであった郁未さんと晴香さんも同じような目をしていた。
そして、私はしっている。ああいう目をした人を決して一人にしてはいけないという事を。
自分が一人だと思わせてはいけないという事を。
「だけど、どうしよう。」
次は殺す。あの人のその言葉にうそはないだろう。あの人にはそういう『強さ』がある。
それは、かつて行動を共にした二人の少女が持っていたものと同じ物だ。
そう、同じ『強さ』を持つあの二人ならば...。
会いたい。あの二人に会いたかった。あの人達ほど頼りになる人はいない。
「郁未さんなら木の板でビームを防いだり、相手のはらわたを加えてにやりと笑ったりしそうだもん。」
まぁ、たまに壁に5000ほどダメージを与えそうな気もするが。
「あ、でも晴香さんはちょっとやだな。なんか、私の事盾にしたり飛び道具にしたりしそう。」
なんとなくおかしくなってクスクス笑う。
頼りになる仲間の事を考えると、それだけで元気がわいてくる。それが、私の『強さ』なのかもしれない。
『そうゆうのをただの能天気って言うのよ。』晴香さんあたりにはそう言われそうだが。
かまうもんか、元気が一番。
「郁未さんって結構むっつりスケベだから、今ごろ男の人と仲良くやってるかも。」
そんな事を大声で言ってみて、景気をつけようとして、
「あの...」
という背後からの郁未さんの声に腰を抜かした。
「い、郁未さん!?」
慌てて振り向いた先にいたのは、しかし郁未さんではなかった。
ちょっとお年を召している、でも結構きれいな人。そして、
うん、似てる。郁未さんを大人っぽくしたような感じ。って郁未さん十分大人っぽいけど。
なんとなくスリーサイズとか身長とかそういうのを思い浮かべる。
「いえ、私は」私の方に向かいながらその人は「母の未夜子です。」自己紹介した。
って、えぇっ!?い、い、郁未さんの、
「お母さん!?」
「はい、天沢未夜子と申します。」
うわ、似てる。この人の方がちょっと穏やかなようだけど。
「あ、ああの私はゆ、由衣です、名倉由衣です。ああ、あの郁未さんにはつ、常々...!」
え、ええい、落ち着け私。ああでも緊張しちゃうよぅ。
「落ち着いて、由衣ちゃんね。」
その人、ええと、未夜子さんは相変わらず穏やかな顔。
「郁未がいつもお世話になっているわ。」
「い、いえお世話になっているのは私の方で...!」
って、あれ?なんで未夜子さん私の事知ってるんだろう?
「それで、由衣ちゃん。あなた今一人かしら?」
「あ、はい。」
今浮かんだ疑問とか、そういえばこの人の右手はずっと背に回されてるなぁとか、
そんなことが頭の中にあったんだけど。私は返答していた。
...ばか正直に。
「そう、じゃ、突然だけど・・・」
もう既に目の前に来ている未夜子さん、右手があらわになって。
ありゃ、手斧。って、嘘?
「さようなら。」
耳元を何かかがかすめて、左肩がものすごく熱くなって、視界が、崩れて赤く、黒くなって。
そんな中で今度こそ郁未さんの声をきいた様なきがした。
「おかあさん!?」って。