「……不毛ね」
先に視線を逸らしたのはきよみの方だった。
「で? 一体何がしたいの? 私を殺す?」
「はぁ?」
マナは一瞬、面食らったが、きよみの視線が腰に提げていたナイフにチラチラと注がれているのにすぐ気がついた。
確かに、こんなものをぶら提げていてはそう思われても不思議ではない。小さく苦笑した。
「あなた、バカ?」
「……なによ」
「あなたが私を狙ってるとかならともかく、なんでガキ呼ばわりされたぐらいで殺さなきゃいけないのよ。
そんなことでいちいち殺し合いなんかしてたら命なんていくつあっても足りないわ。
もし本気でそんなこと考えてるんだったら、ハッキリ言ってそれ、キチガイよ」
「そうじゃなくって」
きよみは苛立たしげに言った。
「今、自分がどういう状態に置かれてるかわかってるの? 今度会う時に私があなたを殺さない保証は何もないのよ?」
「死にたいの?」
その瞬間、きよみにはマナの目が強い光を帯びたように見えた。
小さいはずのマナが、なぜだか自分より大きく見える。マナはギュッと拳を握り締め、続けた。
「ビョーキね、それ。そんなに被害妄想撒き散らして楽しいわけ?
後で殺しに来るなら来ればいいじゃない。拳銃でも突きつけてくれたらあなたの望むようにしてあげるわよ」
一息にまくしたてると、マナはフーッと大きく息をついた。
頭で考えるよりも先に口からポンポンと言葉が出てくる。きよみの言動はなぜだか妙に引っかかった。
「そんな……そんな甘いこと言ってて、他の人に通用するとでも思ってるの!?」
「キレイ事かもしれないけど、疑って人殺しになるくらいなら疑われて殺された方が百倍マシだわ」
マナはそれだけ淡々と言うと、きよみに背を向けた。
「じゃ……お望み通り、もう行くわ」
これ以上きよみと会話するつもりはなかった。
いきなり歩き始めるマナに、きよみは慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「まだ何か――」
不機嫌そうにマナが振り返るのと、向かいの森の木々の合間から人影が姿を見せたのが同時だった。