往人出立


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 国崎往人(033)は氷上シュンの亡骸を抱きかかえながらみちる(087)をあずけた
 店の前に来て愕然とした。
 入口は無惨に破壊され、建物は今にも崩れ落ちそうだ

 「みちる!!」
 往人は氷上の亡骸を地面に置くと大急ぎで店の中に走り込んだ。

 「みちる!いるなら返事しろみちる!!」
 カウンターの影からゴキブリの触覚のようなものがニョキッと生える

 「ね、国崎往人だったでしょ」
 「そうですね。微弱ながら普通でない気配を感じましたし」
 姫宮琴音もカウンターからひょっこりと顔を出す。

 往人は思いっきり走り込んでみちるを抱きしめる。
「国崎往人。いたいいたい」
 みちるはそう言いながらも嬉しそうに頭突きを決めようと隙をうかがっている。
 そのチャンスを物にしようとした瞬間、玄関に人の気配がした。
 往人はみちるを庇うように振り返る。
「だれだ!!」

「あら、国崎さんお帰りなさい」
 左手を頬に添えながら、月明かりに照らされたその人は、まぶしくも美しかった。
「でもね往人さん、いくら能力を制御されているからって一度あった人の気配くらい
ちゃんと察っせ無いようでは生き残るのは大変ですよ」

「お母さん!」
 今までカウンターの後ろでブルブル震えていた水瀬名雪(091)はやっと帰ってきた母の元へ
一気に駆け出した。

 「お母さん、お母さん、お母さん――――」
 泣きじゃくりながら現れた人に抱きつく名雪の頭を優しそうに撫でるその人の表情を見た
 時、往人はなぜかこの人にはどうやってもかなわないと感じていた。

 水瀬秋子――――
 前々回大会の生き残りと言われている彼女は、ただ穏やかに微笑んでいた。
 この殺戮の宴の中でさえ変わらぬ微笑みを――――

「往人さん。高槻という人の後ろにはとある人がいるのよ。
私はその人達と争いたくないから、最後はこの子を生き残らせるために辛い選択をする時が
来るとおもうの」
 秋子は往人に優しく語り続ける。
「今、昔の友人達が必死に高槻をどうにかしようと必死で動き回っているわ。
 もし、あのアナウンスにあった5人に有ったら、秋子の名前を言って助けてあげなさい。
 本当は私が行ってあげるのがいいのだけど、私か祐一さんでないとこの子が落ち着かないから」

 名雪の頭を撫でながら、秋子は往人に微笑みかける。

「さぁ、往人さん。あなたが仕留め損なった人の側に行きなさい。
 私と名雪にはいらないこれをあなたに差し上げます」
 そういって、秋子は携帯電話を往人に差し出した。
「この携帯電話は電話ではなくて、人物探知機です。名雪への支給品だったのですが、この子が
持っていても宝の持ち腐れだから。
 番号を指定すれば、その人がどの人だか解るから便利よ。
 ちなみに、私の番号は090番みたい。さっき調べたらそうだったから」
「良いのですか?こんな大事な物を私に渡してしまって?」
「構いませんわ。私はそれが無くても困らないですから
 自分の力が足りないと思ったらここに帰っていらっしゃい。
 それを、ここでみちるちゃんと約束しなさい」
 往人は秋子にうなずいた後、みちるの前でかがみ込んだ
「みちる。このお姉さん方と一緒にいるんだぞ。俺はちょっと出かけてくるけど
 必ず帰ってくるから」
「帰ってくるって約束だぞ国崎往人!
 そういってみちるは右手の小指を差し出した。
 往人はその小指に自分の小指を絡め3度手を軽く振る。
「指切った。な。約束だ」
「おぅ。国崎往人。美凪をつれてきてくれよな」
「わかった。約束だ」

 往人は、そう言って月光が照らす夜道を見る。
「行ってきます」
そう言って、往人は走り出した

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