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強さの価値は(後編)


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わからない、なにがおこっているのかわからない。
「おかあさん...」
今の声は私が発したもの?
「お、おかあさんって!?どういうことなんだ!?」
隣の男とこの人の声が良く聞き取れない。だけど、
「久しぶりね、郁未。やだ、何その格好?」
その声は記憶にある通りで。なんどもなんども聞いた声で。
そう、私はこの格好を何とかしたいからって町に向かおうとして。
「郁未は進んでる子だと思ってたけど、もう少し方向性は考えたほうがいいんじゃない? 」
その声は相変わらず穏やかなものだったから、
お母さんの下にうずくまっているものだけが違う世界にあるようで、
だけど、それはそこに間違いなくあって、
「あ、ああああああああああああ!!」
どこかで誰かが叫んでいて、うるさいなぁ、って、あ、いやわたしか。
「どうしたの郁未?あなたもっと強い子でしょう?」
そんな事を言いながらお母さんはかすめただけの手斧を振り上げて、
気絶した由衣がその下にいる。
ああ、お母さん、それはちょっと悪趣味なんじゃないかな、なんてぼんやりとそれをみていると。
「っつ、やめろ!」
隣にいた耕一さんが前に駆け出した。
お母さんは、耕一さんのスピードにちょっと驚いた顔で、後ろに飛ぶ。
うん、お母さん気を付けたほうがいいよ。その人ちょっと普通じゃないから。
なんかその人、鬼らしい。力は制限されてるっていってたけどね。
でも、普通じゃないのはお母さんもそうで、耕一さんの突進に合わせて手斧を横に振る。
「...!このっ!」
耕一さんは間一髪でその手斧をかわすと、その重さをもてあましぎみなお母さんの隙を突いて、
「はっ!!」気合の声ともにお母さんの右手を蹴り飛ばした。
耕一さん、キックは使わない方がいいと思うけどね。
まぁ、とにかく手斧はお母さんの手から離れて、これで耕一さん有利かなっておもったんだけど。
「まいったわね、不可視の力だけで十分だと思ったのに。」
母さんは余裕たっぷりで、懐から何か茶色いものが飛び出して、
耕一さんをぶっ飛ばした。

「ぐぅ...なんだよそりゃ。」
「ああ、これ?プチ主よ」
お母さんの肩に乗ったそれはハムスターみたい。
「FARGOの地下迷宮に生息せいている生物でね、今回特別に貸してもらえたの。」
「FARGOって!?どういうことだ!」
「つまりね。」お母さんは、聞き分けのない子にいいきかせるように「私はジョーカーなの。」
「ジョーカーだと?」
「そう、なるべく殺し合いが加速するように主催者側から仕組まれた何枚かのカード。」
だからなにをいっているのか分からないよ。
「なんだってあなたが!郁未ちゃんのお母さんが!」
「強さが欲しいから...いいかげん叫ぶのを止めなさい、郁未!!」
怒鳴りつけられてわたしは叫ぶのをやめた。
「そう、あなたはもっと強い子でしょう? 私があこがれる冷淡な強さ。」
「不可視の力を制御するための、強さ。それをあなたは持っている。」
分からない、お母さん、分からないよ。
「この大会で私が生き残れば、私もきっとそれを手に入れられる。」
「そう、傷つけても傷つけられても、それら全てを克服する強さが」
「この大会の優勝者はね、郁未。みんなそんな強さを手に入れて、そしてそれにふさわしい地位を手に入れるわ。」
「例外なんて、水瀬秋子ぐらいよ。もったいない事ね。」
よくしゃべるなぁ、お母さん。分からない事をべらべらと。
でも、分かった事もあるよ、お母さん。
例えば、お父さんと別れた時の泣いていたお母さんのこと、
その傷がお母さんを弱くしてしまった事、
目の前に由衣と、耕一さんが倒れている事、
それと、これが一番大切なんだけど...。
私は強い子なんだって事。
私は全身にばねをためると、前に駆け出した。
不可視の力を使ったその速さは、それなりに速いんだろうけど、
「..。そうね、きなさい郁未。」
冗談じゃない。この程度の力でプチ主と戦うほど私は馬鹿じゃない。
私は、お母さんの方にはむかわずに由衣の方に向かった。そして、
「下がってお母さん。由衣のダイナマイトを起爆させるわ。」
由衣の胸にてを当てて静かに告げた。

「な、郁未ちゃん!」耕一さんは驚きの声を上げるが、私はそれを無視する。
「今の私の力でも起爆ぐらいは出来るわよ。」
声は、震えなかったと思う。体は知らないが。
「郁未にそれが出来るかしら? 」
「当然でしょ、お母さん。あなたの娘は、」そう、お母さんがそう言うのならば、
「とても、強い子よ。」
「...本気なの?」
「お母さんに今殺されるわけにはいかない。お母さんを止める人がいなくなるから。」
「お母さんに殺されるぐらいなら、今ここで一緒に死んでもらうわ。」
「手詰まりよお母さん、さっさと目の前から消えて。」
しばしの沈黙の後、おかあさんはふぅ、とため息を吐いて、
「そのようね、ここは引き下がるわ。」
そういってその場から立ち去った。

「郁未ちゃん...」耕一さんはよろけながらこっちにやってくる。
その声に含まれた気遣いは今の私には不快なものだ。
「町に降りよう、耕一さん。由衣の手当てをしないと。」
だから、私はそっけなくそういった。
なんでこんなに私は平静なんだろう。
この平静はいつまで続くのだろう。
この次の一瞬まで? それとも一生?
どっちだっていい。大事なのは今平静でいられるという事。
だから、私はお母さんが残したいくつかのキーワードを考える。
何人か居るというジョーカー。
そして、大会の生き残りという水瀬秋子。
そして、この大会の黒幕。
今は、考えなくてはいけない事が多すぎるのだ。

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