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対峙


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暗闇に包まれた森の中を、江藤結花(009)と長谷部彩(071)はお互いについての話をしな
がら歩いていた。お互いの境遇、彩の方が年上であったこと、思いを寄せていた人の生
死、そしてこれからの事。

「彩さん、そのペン…」
結花は彩の持っていたGペンを手に取ると、夜空にかざした。
僅かに差す月の光に、ペン先が鋭く光る。
「これって、ただのペンじゃない…。ナイフみたいね」
「そうなんですか…。そこまで気が付きませんでした」
「うん。これって意外に使え……、って、遠くから銃で狙われたらひとたまりもないけ
ど」

どれくらい歩いただろうか。果てしなく続くと思われた森の中から、水の流れる音が聞
こえてきた。
「あ…」
「川?」
二人は、重くなりつつあった脚を励まし、その音の方に向かった。

ガリッ、ガリッ…

あれから川沿いの河原にたどり着いた二人は、川の水で喉を潤した後、河原に沿って歩
き続けていた。両岸は次第に高くそびえ立ち、小一時間も歩いた頃には、もはや谷間と
しかいえない状態になっていた。
「結花さん、あれ…」
彩に指摘されて結花が崖を見ると、何かが崖に沿って垂れ下がっていた。
おもむろに崖に近づく。
「橋ね…。吊り橋かしら」
古ぼけたロープ、黒光りする木の板、それは紛れもなく吊り橋であった。
振り返れば、反対側の崖にも同じような吊り橋の残骸が見える。

再び歩き出そうと向き直って、結花は視線の先に、何か黒光りする物を見つけた。
吊り橋の木の板と違って、金属質の鋭い光り方だ。
よく目を凝らすと、どうやら銃のようだ。
「彩さん、ここで待ってて。ちょっとあっちの方見てくるから」
彩にその場にとどまるよう告げると、結花はその光の方へ歩き出した。
踏み出してから数歩進んだとき、向こうから不意に声が響いた。
「止まりなさい!」

ちょうどその頃河原では、深山雪見(096)が休んでいた。
少し前の銃撃戦で受けた衝撃で、胸が痛い。
さっき名倉由依を撃てなかったのはそのせい? それとも…

雪見は、弾切れしたライフルのマガジンを換えようとしていた。
だがいかんせん銃には素人、マガジンの外しかたがわからない。
仕方なく周囲の枯れ草をかき集め、100円ライターで少しばかりの灯をともした。
その明かりを頼りに、どうにかマガジンを外す。
そして鞄の中をまさぐり、新しいマガジンを取り出そうとしたその刹那……
近くに人の気配を感じた。
雪見は咄嗟にサバイバルナイフを手に取り身構える。
何メートル先だろうか、人影が見えた。
雪見は思わず口走った。
「止まりなさい!」

「止まりなさい!」
いきなり聞こえた声に、結花は身をすくめた。
視線を左に向けると、人影が見えた。脇に灯されていた小さなたき火で縁取られてい
る。女性?
結花も、出刃包丁を持つ手に力を入れる。
「あなた、誰?」
「そんな事どうでもいいわ」
雪見は一歩づつ結花に歩み寄る。
「私を邪魔する人は、許さない…」
その場の勢いに押された結花は、一歩も動けない。
「待って!私の話も聞いて!」
「許さない…」
二人の間隔は、少しずつ狭まっていく。
もう少しで相手に手が届くという間合いまで来たその時、
ヒュン!
雪見の脇を何かが駆け抜けた。

結花の身に危険が迫ったことを察知した彩が、自らの武器であるGペンを投げたのだ。
しかし、ペンは雪見の脇十数センチをかすめ、奥の方に消えていった。
「……!」
雪見は立ち止まった。
「他に誰かいるの?」
彩は彩で、二人の対峙を目の前にして何もしゃべれずにいた。

ほんの数秒、時間が止まったような感じがした。
しかし、揮発油のにおいがその場を崩す。そしてその直後、
ボウッ!
すぐ後方で火の手が上がった。
彩が放ったペンの先は、雪見が河原においていた荷物の一つ、ジッポオイル入り水風船
を突き破った。そして流れ出したオイルが、明かり取りの火に引火したのだ。

「……!」
雪見は咄嗟にきびすを返し、火の方へ駆けだした。
結花は一瞬たじろいていたが、遅れて後を追う。
ようやく荷物のある所まできた雪見は、置いてあったライフルを取り、銃口を結花に向
けた。
「来ないで!」

(本当ならこのまま引き金を引いてしまいたい。でも今このライフルには弾が入ってい
ない。でも、相手を脅すくらいなら…)
雪見はそんな気持ちで、銃口を結花に向けていた。
そして銃口を向けたまま、散らばっていた荷物をかき集め終わると、
「いつか、いつか必ず…」
そう口走りつつ、川上に向かって走り出した。

全てが終わった…
足音が聞こえなくなってから、張りつめていた緊張の糸が切れたかのように、結花はそ
の場に座り込んだ。
「結花さん…!」
ようやく状況を理解したのか、彩が結花の元へ駆け寄る。
「あ、彩さん、だめじゃない… じっとしててって言ったのに」
「ごめんなさい…」
彩の声も、心なしか震えていた。
「でも、私に出来るのは、これくらいしか…」
「あ…、でも、ありがとう」
「こちらこそ…」

「ところで彩さん、その手に持ってる銃、どこで手に入れたの?」
「そこの河原に落ちてました…」
「あっ、そうなんだ…」
結花は、ようやく本来の目的を思い出した。
「ペン、投げちゃったんでしょ? それ使ったら?」
「あの…、私、銃なんて使ったことないんですけど…」
「私もよ。よかった、これで何とかなりそうね」

「結花さん、怪我はないですか?」
「大丈夫。でも、ちょっと緊張したわ」

オイルの炎が少しずつ静まり、辺りはまた暗くなった。

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