おすそわけ
「はい、これ。おじさんにもあげる」
そう言って差し出されたあゆの右手の上の物体を見て、御堂は眉を寄せた。
「ああ? なんなんだ、コイツは」
御堂は、あゆの手のひらの上に鎮座する魚型の物体を訝しげに睨み付けた。
魚型の物体は、そのつぶらな瞳で御堂を見つめ返している。
「たいやきだよっ。ずっとポケットに入れたまんまだったから、冷たくなっちゃったけど…」
にっこり笑って、御堂に物体を手渡す。
「朝ご飯、いっしょに食べよ」
「…食いモン…なのか?」
「しっぽまでアンコがいっぱいだよ」
それを聞いた途端、御堂は手の中の物体を脇に放り投げた。
「わっ、わっ、捨てちゃうダメ〜」
慌ててあゆが拾い上げるが、たいやきの右半身に砂がついてしまっていた。
「うぐぅ…食べ物を粗末にしちゃダメだよ…」
表情を曇らせながらも、懸命に砂のついた面を削り取るあゆ。
「俺は甘いモンは嫌いなんだよ」
御堂は、そんなあゆにはまるで頓着する様子もなく、面倒くさそうに仰向けに寝転がった。
やがて、あゆも作業を終えると、
「はい。今度はちゃんと食べてね」
と、アンバランスな面持ちになったたいやきを紙袋の上に置いて、立ち上がった。
そのまま立ち去っていくあゆを、片目で追っていた御堂は、少し離れたところから、
「はい、キミにもあげるね」
「にゃ〜」
というやり取りが聞こえてくるのを確認した後、上体を起こした。
「…よくよく考えてみりゃあ、コレでも一応、非常食だしな」
戦場では、食えるときに食っておくのが鉄則だ。
非常時に食い物の好き嫌いを語る兵士なんざ、家に帰ってママのオッパイでも吸ってる方がお似合いだ。
不細工な魚型の物体を眺めていた御堂の目前に、ぽん、とあゆの笑顔が浮かび上がった。
慌てて首を振る。
「けっ…馬鹿馬鹿しい。なんだってあんなガキなんか…。いいか、俺はあんなクソガキのためにコイツを食うんじゃねえんだ。ただ…ただ、プロとして必要時の栄養価の摂取を行うだけだからな」
誰かに言い訳するように独り呟いた後、魚型物体を口に放り込み、ゆっくりと咀嚼し──
「おっ、うめえ」
思わず本音が出た。