美凪とみちる


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 歩いて、歩いて、歩いた。
 ただ、みちると帰りたかった。
 国崎さんも、一緒に。
 また、三人で、変わらぬ時を過ごしたかった。

 体中の力が抜ける。
 もう、歩けない。
 瑠璃子さんと別れてから、体の調子が悪かった。
 なんだろ、どうしちゃったんだろ。

 ――倒れる

 目が見えない。
 もう朝のはずなのに、まっくら。

 ――死んじゃうのかな。

 みちると出会った日を、思い出す。
 みちると過ごした日々を思い出す。

 妹と同じ名前を持った女の子。
 私の救い。私の拠り所。私の夢のかけら。
 ――私の、おともだち。

 また、シャボン玉飛ばしたかったな。
 くるくる、くるくる。

「わぷっ」

 ふふ、声が聞こえるよ。

「みちる――」

「あっ……」
 半壊している喫茶店。
 名雪と琴音と喋っていたみちるは、突然悲しい声を上げた。
「みちるさん、どうしたんですか?」
 不思議に思い、琴音が尋ねる。
「うに……もう、行かなきゃ」
「みちるちゃん? どこへ行くの?」
 カウンターの秋子も、みちるの様子がおかしいことに気付いた。
「みちるは美凪の夢なんだよ。
 だから、美凪がいなくなったら、みちるも消えるの。
 悲しいけど、残念だけど」
「みちるちゃん、どういう意味?」
 秋子の問いかけに、みちるは答えない。
「国崎往人に会ったら、ありがとうって。
 美凪もみちるも、楽しかったって。
 おねえちゃん達も、ありがとう。
 ぽちをよろしくね……ばいばい」
「みちるちゃん!」
 名雪が叫ぶ。その声は届かない。
「消え……た……?」

 後には、ぽちと名付けられた白ヘビが残るだけだった。

 ――ありがとう、美凪。
 ――どうしたの? みちる。
 ――美凪が美凪だったから、みちるはみちるだった。
 ――私もよ。
 ――みちる、楽しかったよ。
 ――うん。
 ――美凪も、楽しかったよね?
 ――……うん。
 ――にゃはは、よかったよ。
 ――国崎さんにお礼を言わないとね。
 ――にゃはは、そうだね。

 ――ありがとう――

062遠野美凪 死亡  087みちる 消失
【残り72人】

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