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朝陽。


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「何なんだよ、てめえ」
住井は突然の、男――緒方英二の登場に戸惑いを隠せぬまま、右手のマシンガンを向けた。
だが、英二は住井には見向きもせず、その横で呆然としている美咲を見て、微笑みながらこう云った。
「――君は、澤倉美咲さんだね」
「え、ええ」
突然質問をされて、美咲は訳が判らない。ただ返事をしただけだが、英二は満足そうに頷いた。
「――ここの対岸の山にあるマンション群で、知り合い数人を集めて行動している。
 藤井冬弥君、七瀬彰君、森川由綺、河島はるかさん、――それに、俺と緒方里奈、
 ある程度面識がある人間で集まっている」
何とかこのゲームを乗り切るために、な。そう云った。
「皆心配している。緒方里奈と君だけが未だに集まっていなかったが」
これで後はうちの妹だけだ。そう、云った。
びくりと、美咲が震えるのが見えた。住井は唖然として、その男を見つめていたが、
「ふ、ふざけんなっ! な、何云ってんだ、てめえっ」
――初めて自分の存在に気付いたかのように、英二は住井に視線を遣った。
「――君は誰だ? 少年」
この女の恋人か、と、含み笑いをしながら云ってきた。その、こちらを見遣る視線には不快感しか感じない。
「……ふざけんな」
かちゃり、と、もう一度銃口を男の顔面に向けた。
「オレが、この人を護るんだよ。大体、しゃりしゃり出てきて、そこに人が集まっている、なんて信じられるか!」
その余裕かました右手に、あんたが銃を持っていないとは云えないだろうが! 苛立ちのまま、そう云った。
美咲は、呆然と、そう言い放った少年の顔を眺めた。
すると、男はくつくつと笑った。
「若いな、少年」
「バカにするなっ!」
「ならば、これでどうだ?」
英二が上着から右手を出すと、そこには小さな刃のナイフがあった。
――それを、海に放った。
「――何、考えてるんだ」
住井が唖然とした目で、それがぽちゃり、と音を立てて沈んでいくのを追った。
「――そんな、事で信じられるかっ! まだ、武器を持ってないとは限らないだろうが!」
だが、明らかに語調は弱くなっていた。

「――喩え、あんたが敵じゃないとしてもだ。武器も無しに、美咲さんを護る事も出来ないだろうが」
住井は、少し開き直った目をしてそう云った。そうさ、オレが美咲さんを護るんだ、と。
歯を食いしばりながら、男の鋭い目を見据えた。
「良い顔だ。――良い目をしているな、少年。――だが、一つ聞きたい。
 君も、こうやって彼女を連れ回している事が、彼女にとって本当に安全と云えるのか?
 しかも、二人きりで行動している。マシンガン一丁で、彼女が絶対に傷つかないと云えるのか?」
――それは、そうなのだ。絶対に守り切れる保証はない。だが、
「それはあんただって一緒だろうが!」
「多人数で行動すれば、間違いなく、二人で行動するよりは安全だ。
 集合場所には他に武器はある。――どうだ?」
「っ……」
「――別に、君に単独行動をしろ、と云っているんじゃない。
 君もなかなか面白そうな少年だ。良ければ一緒に行動すればいい」
判ってる、判ってるんだ。美咲さんの安全を考えるなら。
そうさ。二人っきりで行動しようなんて云うのはエゴじゃないか。
二人きりでいる意味なんて、俺が彼女を口説くため、それ以外にないだろう?
しかし、それでも住井の意地は、その瞬間まで、けして美咲を離そうとしなかった。
――住井がふと、横目を見た時、美咲がまた、泣いている顔が見えたから。
美咲さん。――住井は、そう呟いて。

「――判ったよ」
「護――君?」
「うん。この人と行動しよう。本当に信頼できるかは判らないけど」
「そう、ね」
美咲は、自分が泣いていることに初めて気付いたかのように驚いた顔で濡れた自分の頬を撫でた。
目を慌てて拭うと、住井に優しく微笑みかけ、頷いた。
「よし、なら決まりだ、早速行こう」
だが。
「待って。オレは行かない」
住井は、そう云った。
「護、君?」

「――知り合いに、北川潤っていうのがいる。そいつはコンピューターをかなり触れる。
 で、実はオレは、違法の携帯電話を持ってる。こんな島でも使えるような、改造型のね。
 そして、この鞄の中にはノートパソコンが入っているんだ。
 上手くすれば、――色々やれるかも知れない。そいつを呼んでくるから」
――少しの間があって、英二は頷いた。
「判った。――君はマシンガンも持ってるし、大丈夫だろう。この娘は俺が責任もって連れて行く」
美咲は慌てて、
「待って、わたしも護君に付いて――」
と云おうとした――だが、住井はその言葉を遮って。
「いや、良いよ、美咲さん。どうせすぐ逢えるんだから。今よりずっと安全な筈だよ」
「護、君」
「大丈夫だって。オレにはマシンガンがあるんだぜ」
「――でも」
「大丈夫」
住井は笑って、そう云った。

「それじゃあ、場所は判ったな、少年」
「ああ」
「責任もって送り届けるから、君も死なないようにな」
「ああ」
背を向けて、歩き出そうとした時。
「護君」
「え?」
――その瞬間、頬に、柔らかなものが触れた。甘い匂いが、住井の鼻腔を衝いた。
柔らかな髪が頬に触れ、それは、自分にとってあまりに新鮮な感覚で。
離れた美咲は、真っ赤な顔をしていた。
「また、朝陽、一緒に見ようね」
――勇気出たよ。
住井は小さくガッツポーズを作り、真っ赤な顔をして、
「おう!」と返事をした。

森の中を二人で歩きながら、美咲は先程の行為を思い出した。恥ずかしいことをしてしまったなあ、という、
そんな思いでいっぱいだった。
本当に、数時間しか一緒に行動していなかったけど――自分は、あの少年のことが好きなのかも知れない、
と思うと、少し胸が締め付けられるような気がした。
「なかなか大胆なことをやる子だね、君も」
自分の前を歩く緒方英二は、笑いながらそう云った。
顔を赤くするしかできない。
目的のマンション群まではあと1キロと云ったところだろうか。
森の中は案外安全で、ここまで誰にも出会わないで来る事が出来た。
このまま森を抜けることが出来るだろう。
持たされたバタフライナイフも、多分使うことはないだろう――

――その時、だった。

「おはよう諸君、元気に殺し合ってるかな。 この時間までの死者を発表するぞ。
026河島はるか 054高倉みどり 072氷上シュン 032霧島聖
059月島拓也 007猪名川由宇 049新城沙織――」

ごくり、と唾を飲む音が、前を歩く聞こえたような気がした。
「はるか、ちゃん?」
――後輩。いつものんびり屋で、自分のことを慕ってくれた、可愛い後輩が。
「嘘、でしょ?」
嘘だ。嘘だ、はるかちゃんが。はるかちゃんが、どうして――皆で集まっていたんじゃなかったの?
「――すまない。俺は、少し嘘を吐いていた。まだ、マンションには全員集まっていなかった」
美咲は、振り返った英二の、あまりにも悲痛そうな顔を見た。
「――ずっと、捜していた。だが、全然見つからなかった。そんな中で君を見つけたんだ。
 君を安心させるために、ああいうしかなかったんだ――」
歯を食いしばるような音が聞こえたような。彼だって、嘘など吐きたくはなかったのだろう。
だが、それとこれとは話が別だ!
「どうして! どうして……皆、元気なんじゃなかったの? 嘘なんて吐かないでっ……」
実は、誰もいないんじゃない? 誰も!
わたしはあなたに騙されて、それで

ガァン、という、重い音が聞こえた。

そして、弾けた。
前のめりに美咲は倒れた。
――やっぱり、騙されたんだ。
護君と、一緒に行動しておけば良かった。
「だ、誰だ貴様っ!」
いいよ、緒方さん、もう、そんな演技しなくても。
わたしは、騙されたん、だ。もう、判って、る。
耳の遠くで、もう一度音が聞こえた。
「くっ! 貴様っ」
重い頭を上げて、英二の方を見た。
足から血を流している。なんて痛そうなんだろう。
足を引きずりながら、森の影に消えていった。
わたしは、置いて行かれた。

男――巳間良祐(093番)は、苦虫を潰したような顔をして、目の前の娘を見た。
俺は、殺してしまった――だが、殺さなければ殺されるのだ。
そう言い聞かせても、罪悪感は消えることはない。
あの最初の放送で、殺すべき五人の名前が呼ばれた。自分はその中に入っていた。
俺には特別な力など無い。ただ、与えられたこの銃だけ。
俺の命を狙う人間は少なからずいる筈、俺は、島の中でもっとも狙われるべき存在だ。
だからといって、こんな小さなナイフしか持たなかった少女を殺すなど。
高槻。――お前は、俺を狂わせている。
俺は、このような少女を――妹と同じ年齢の少女を。
近付いて顔を覗くと、本当に、まだ若い娘だった。胸から夥しい血を流し、殆ど即死だろう。
畜生――。高槻、俺を狂わせるな!
「ぁ…ひ、…った、ね」
――苦しんでいる。――せめて、楽にしてやらなければ。
良祐は、もう一度、引き金を引いた。もう一度、その白い肌に弾丸を撃ち込んだ。
「高槻っ……!」
良祐は、咆吼した。必ず、殺してやる――

意識が朦朧としてきているのに、言葉だけは紡がれる。
それが、死ぬって云うことなんだろうか。
……死ぬんだなあ、もう。結構、あっさり、やってくるんだなあ。
藤井君や七瀬君、由綺ちゃんに、もう一度逢いたかったなあ。
色々あったなあ……忘れられないことばかりだった……
結局、逢えなかったなあ……。
家族にも、逢えなかった……な。生き残れなかった、なあ。
もう一度、逢えたら、な。
――護くん。

もう一度。
もう一度、逢いたかった。
逢いたかった。

「ぁ…ひ、…った、ね」
言葉にならない。かすれた声。
もう一度、力を振り絞って、わたしは、呟いた。
――朝陽、もう一度、見たかったね――
そう呟いた声は、どうしようもない大きな音で掻き消され、――美咲は、途切れた。


「おはよう諸君、元気に殺し合ってるかな。 この時間までの死者を発表するぞ。
026河島はるか 054高倉みどり 072氷上シュン 032霧島聖
059月島拓也 007猪名川由宇 049新城沙織――」

北川を捜しながら、島を外回りに歩いていた住井は、その放送を市街地が見えかかったところで聞いた。
そこは、マンション群から一番遠く離れた場所。
河島はるか、という名前を聞いた瞬間に――嫌なものを感じた。
確か、河島はるか、という人は――さっきの男とともに行動しているはず、ではなかったのか?
「――しまったっ」
――騙された、かも知れない。
最悪の場合。それはあの緒方英二という男が、知り合いを一人一人おびき寄せて、殺している、と云う場合。
河島はるか、という女性も、同じようにおびき寄せられて殺された……
それならば、美咲はもう――
「畜生っ! オレはバカかっ?」
――だが、まだ、別のパターンも考えられる。最悪のパターンを考えるには早すぎる!
そうだ。そのアジトが襲撃されて、そのはるかという女の子が殺された、という、それだけならば。
「まだ、生きてるかも知れないっ!」
約束したんだ、もう一度美咲さんと逢うんだって。
朝陽を見るんだって!
必ず守るんだ、って――!
――島の反対側への最短距離を、――真っ暗な森の中を、住井は駆けた。

044 澤倉美咲 死亡

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