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月。


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「026河島はるか 054高倉みどり 072氷上シュン――」
その放送を、彰は赤い屋根の下で聞いた。
「はるかっ――」
――親友だった。いつも優しい笑顔を見せてくれた、いつも自分を励ましてくれた、親友だった。
「はるかぁ……」
畜生。何で、何で、何で――。
あんな良い奴だったのに。優しくて、可愛い奴だったのに。
「彰、お兄ちゃん」
――家に入ってきた初音が、そんな震えた声を出したのだから、余程自分は乱れていたのだろう。
「……ごめんね、初音ちゃん。驚かせちゃったね」
ううん、と初音は慌てて首を振った。
「わたしこそ、ごめんなさい。――彰お兄ちゃんの、気持ちも考えないで、どかどかと部屋に入ってきて」
自分の事のように、初音は俯いて、――多分、少し泣いていた。
「初音ちゃんは、すごく優しい子だね」
――彰は、そう云って初音を抱き寄せた。まだ、こんなに小さい。
「うん、もう、僕は大丈夫だ」
はるか。――こんな言い方は、すごく身勝手かもしれないけど、必ず生き残るから。
「――それで、その機械の修理は終わったの?」
話題を変えるつもりで云うと、初音は自分の胸の中で、小さく頷いた。
「ロボット自体は動かないけど、武器だけは少し直ったよ」
護身するには、充分すぎるくらいだね、と、彰を見上げて初音は云った。
って、僕はいつまで抱きしめているんだ!
というか、何で無意識のうちに抱きしめているんだ!
――というツッコミは、もう彰の心に生じる事はなかった。
まあ、とどのつまり――初音ちゃんが可愛いんだから仕方がないのさ。
可愛さに罪はないんだから。
という結論に至った彰は、もう、なんだか、失格のような気がした。
まあ、こんな僕だけど、頑張るから、はるか――。

簡単に食事をして、二人は出発の準備を始めた。
清涼院の小説型鈍器と、――その後、洗面所の裏で見つけたジッポライター。
何の役に立つかも判らないが、一応持っていく事にした。
「取り敢えず、お姉さんを探しに行こう」
――二人は再び森の中へと足を踏み入れた。
美咲の事も気にかかったが、取り敢えずこの娘を早くお姉さんに逢わせてやらないと。
森の中をしばらく歩いていたが、まるで誰とも遭遇する様子がない。
「なかなか逢えないね……」
と、彰は苦笑混じりに後ろを歩く初音を見遣った。
――だが、初音は浮かぬ顔である。
「どうしたの?」
――ううん、と、初音は辛そうに首を振った。

次第に歩む速度が遅くなり、その細い身体をだんだん曲げていく。
お腹を抱え、冷や汗をだらだらと流すその様子は尋常ではない。
「大丈夫? お腹痛いの?」
「大丈夫、大丈夫だよっ……少しだけ休めば、大丈夫、だからっ」
青いを通り越して、真っ白な顔である。
……まさか、熱病か何かにでもかかったのだろうか。
ここがどんな島だかも知らないが、もしかしたら悪い熱病のウイルスがいるのかも知れない。
「そんな顔して大丈夫なもんか! 一旦、街に戻ろう」
無理矢理背中に乗らせると、全速力で彰は街に再び戻った。
家に駆け込み、ベッドに寝かせた。初音は息を乱しながら、
「少し、外に行ってて、くれる、かな」
という初音の言葉を聞き、彰は何も云えず、そのまま外に出た。
顔色は一気に良くなっていたから、寝かせておけば大丈夫だろう。
それとも、苦しむ姿を見られたくないのだろうか、とも思いながら、
「外、見張ってるね」と云って。
――実は、初音は、間が悪く生理が始まっただけなのだが、彰にそんな認識はまるでなかったりする。

――同じ頃、市街地に、森の中で自分達の姿を見た、新たな殺人鬼が現れた事を彰はまだ知らない。

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