惑い
良祐は苦悩していた。
人を殺す、そのこと自体に対しての惰性的な慣れに。
そもそもFARGO自体がそういう組織なのだから、いまさら、
「僕は人を殺すのが嫌いです、どうしてみんな仲良くできない?」
などというような偽善を吐くことはできない。
だが、俺が今ここにいる事実もまた紛れも無い事実。
それを否定することも出来ない。
狩るものと狩られるものがいるのだとしたら、
狩る側に回らなければ生きてはいけない。
生きる。
泥をすすってでもまず生き残る。
それが俺の復讐の始まり。
晴香は……まだ生き残っているようだ。
だが俺にはあいつを守ることは出来ない。
もう、俺は妹を捨てたのだから……。
「…………あ」
――意識が、少し飛んでいたようだ。
目の前に広がる惨状。胸からおびただしい量の血を流し事切れている女性の亡骸。
俺が殺した。
その事実が胸に深く突き刺さる。
黒い銃身。ワルサーP38。だがその刻印の入った銃に、
俺はいま自分の命を託さなければならない。
高槻を殺さなければ、ゲームは終わらない。
それまで……俺は生き残らなければならない。
辺りを見回す。
誰の気配も無い。
先ほどの銀髪の男には手傷を負わせた。
だが深追いは避けたほうがいいだろう。
今は、まだ何も見えない。
深い霞に囚われたような……そのような状況。
良祐は走ってその場を立ち去った。
苦い思いは、それを無かったことにして。
走る……、次なるところへと走る。
誰にも平等に訪れる死。それに抗うかのように……。
住井がそこに再び辿りついたのは、それからたったの二分後のことだった。