死ぬまでセイギ?
(体が…。熱い……)
太田香奈子(010)に道案内をさせ始めてからしばらくして、松原葵(081)の体に変調が現れた。
(胸が苦しい…)
毒はこんなにも強力だったのか。
彼女は腕をしばることである程度処置したつもりだったが、それはほんの少し…。そうほんの少し寿命をのばすにとどまった。
「うう…、あ…」
ひざが折れ、その場に座り込んでしまう。
前を歩いていた香奈子がゆっくりと振り返る。
「あはは、やっぱりだめよね?」
歩み寄ってくる加奈子に、葵は視線を向けることしかできない。
「さっきの女を殺せば解毒剤をもらえるのよ? ちょっと胸に鋏を突き立てるだけ。簡単よオ」
「『殺す』なんて駄目です…。みんなで協力し合って帰る…ん…です……」
ガッ!
葵が仰向けに押し倒される。
「それがあなたの正義? 正義せいぎセイギセイギセイギ!!!???
そんなものここじゃ意味無いのよ!! そんなものがあるなら瑞穂は殺されなかったはずでしょぉォ!!!!」
「うあ…あ……あ……」
葵の体の中を恐怖が走りぬけた。
ビリビリビリッ!!!
制服が無残に裂かれ、白い肌が露になる。
体を重ねてくる加奈子。
抵抗したい。なんとか跳ね除けたいという葵の心とは裏腹に、身体は動こうとはしない。
「可愛いわね。うふふふふ……。でもね、瑞穂はもっと可愛かったワ…」
香奈子の舌が葵の首筋をなぞる。
死の恐怖による戦慄が恍惚感に化けつつある。
「ひゃ、あ…ふあっ…やめ…て…」
舌が這うたびに無意識に体が跳ねた。
押しのけたいけど力が入らない。
(毒のせい…だ)
「たのしイよ? 人を襲うの」
葵の肌の上に香奈子の爪がたてられる。
力をこめ、引いた。
「うあぁぁあぁぁああぁあぁぁっ!!!!!」
白とは対照の赤が散る。
「あははハハ…。イイ声。気持ちイいよ。どうしてあなたはガマンできるの?
殺してもいいんだよ。ココでは。聞けるヨ。声。たくさん」
香奈子は自分の頬に両手の爪を当てる。
同じように、引いた。
6つの爪あとが頬に刻印される。
ポタポタ……
(狂ってるよ。狂ってるよ。怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!)
無意識に動かしていた手に硬いものが当たった。
『鋏』