目覚め
『おはよう諸君、元気に殺し合ってるかな。』
江藤結花(009)と長谷部彩(070)の浅い眠りを打ち砕いたのは、どこか遠くから聞こえて
くる声だった。
もっとも、結花の方の眠気はその声の続きを聞いたときに吹っ飛んでしまったのだが。
『054 高倉みどり…』
結花は一瞬気色ばんだ。
「みどりさん!」
その声を聞いて、彩もはっとした。その直後、
『007 猪名川由宇…』
そう告げた放送の声に、彩はただうつむいてしまった。
『では諸君俺様にそんなことを言わせなくても済むよう頑張って殺しあって
くれたまえハハハハ。』
二人は押し黙ったまま、放送を聞いていた。
放送が終わってから数分後、ようやく結花が重い口を開いた。
「また、またひとり死んじゃった」
「結花さんも…、ですか」
「えっ?」
「…そうね。でもなんというか、感じ方が違うんだ。健太郎が死んだと知った時は、悲しくてたまらなかったのに」
「……」
「でも、でもね…」
結花の口調が激しさを増す。
「どうして、みんな殺し合うの? そんな事しても、何にもならないじゃない」
「ゲームって…、言ってました…」
「こんなゲームってある? 殺して、殺されて、それから、それから…!」
「結花さん…、落ち着いて下さい」
「……あっ、ご、ごめんね」
体にまとわりつくような悲しみを払いのけるように、結花が言う。
「さ、とにかく行こう。そうしなきゃ何も始まらないわ」
「はい…」
彩は立ち上がると、脇に置いてあった銃を拾い上げた。
夜中、雪見との戦いの時に拾ったあの銃を。
「トカレフ…ですね」
「彩さん、解るの?」
「はい…。以前、同人誌の題材に使ったんです。その時に、図書館とかでいろいろ調べて…」
「トカレフって…、あっ、ニュースで見たことある。確か暴力団が使ってる銃でしょ?」
「そうです…。あと、この銃は多分他の人が使ったなので、弾丸はそんなに残っていないと思います」
「そっか。弾丸が切れたらどうしようもないよね。だったら大切にしないと」
二人はパタパタと、お互いの服に付いた砂をはたき合った。
「で、どうする? この先に進むとかなりキツそう」
結花が指さした先、川上の方からは激しい水の音が聞こえてくる。
「…戻りましょう」
彩の声に結花はきびすを返し、
「行こっ!」
元来た道、いや河原を歩き出した。