決別


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探していたもの。
求めていたもの。
その結末は、あまりにも呆気なさ過ぎて。

僕は、ただ涙を流すしかなかった。

不意打ちを受けたのだろうか。
固まったままの表情は、驚愕と、そしてほんの少しの恐怖が浮かんでいた。
僕はそんな瑠璃子さんの表情を見ているのがとてもつらくて、
そっと手で、表情を穏やかなものにしてやった。

「……長瀬さん」
ふと顔を上げれば、後ろからの声。
僕の事を信頼して、自分の手が汚れるのも構わず付き添ってくれたひと。
僕も、そのひとの名を呼ぶ。
「…天野さん」
沙織ちゃんも、瑞穂ちゃんも、月島さんも、そして瑠璃子さんも、
みんな死んでしまった。
僕のそばに残ったのは、この島に来るまで一度も会った事も無かったこの人だけ。
僕は笑顔を作り、天野さんの方へと向き直る。
無理をしてるんだって、自分でもわかる。
だけど、彼女を心配させるような事はしたくない。
だから、僕は何事も無かったかのように、平然と答えて見せた。
「うん、大丈夫。あんまり一つの場所に留まり過ぎると危険だからね、行こう」
そう言って、天野さんの肩をひょい、と抱き寄せてみる。
慣れない行動だったから、ちょっとぎくしゃくしてしまったけれど、
天野さんは僕を見上げて、優しく笑ってくれた。
頬が紅潮するのが自分でも分かる。恥ずかしい。

目を合わせていられなくて、思わず僕は後ろを振り返る。
そして、しまった、と思う。
あぁ、また瑠璃子さんの死体が僕の目に入った。
釘が数本も刺さり、とても痛々しい。
ふと、閉じた筈の瑠璃子さんの目が、こっちを見ているような気がした。
助けて、長瀬ちゃん、って言ってる気がする。
無理だよ、瑠璃子さん。
死んだ人間は、もう戻って来たりしないんだ。
決して。決してね。

僕は、決別の意思を込めた涙を、一雫だけ流す。
向こうの世界へと旅立って、もう二度と戻って来ることはない、瑠璃子さんに向けて。

「さぁ、行こう」
そして、天野さんの肩をさっきよりも強く抱きとめて、歩き出す。
誰も守れなかった。
口だけの覚悟だった。
だけど。
せめて、せめて僕の隣にいる、この人だけは。
僕の手が飛ぼうと。
僕の足がもげようと。
天野さんだけは、守って見せる。
こんなにも弱い僕だから、
出来る事と言ったら、それくらいしかないから。

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