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 きよみと別れてから、再びマナは歩き始めていた。
 こんな時でなければ、この静かな林道は散歩するにも気持ちいいだろう。
 そうでなくても、少なくとも昨日まで歩いていた森の中に比べればよほど歩きよいと言えた。
(思わず歌でも歌いたくなっちゃう雰囲気よね。歌わないけど)
 まだ痛む足をかばいつつ、何回か休憩を入れながら数時間のんびりと歩くと、遠くに大きな建物が見えた。
 マンション、だろうか。無機質な、四角い建物がいくつか並んでいるようだ。
(住宅街、みたいなトコかしら……会いたい人か会いたくない人かは別として、誰かしらいそうね)
 無意識的に歩調が速くなる。ほどなく、道の終わりが見えてきた。
 林道からマンション街に差し掛かる、やや開けた場所で。
 マナがその姿を認めた時には、既に黒光りするマシンガンの銃口がマナを狙っていた。
(ちょっとドジっちゃった、かな……)
 取り合えず両手を上げ、敵意のないことを示してみた。
 だが、そんなことをしたところで、相手がゲームの『参加者』であったなら、何の効果もないことをマナは知っていた。
(あーあ……オシマイかしら、ね)
 ――思えば、相手に殺意がないことを自然と感じ取っていたのかもしれない。マナは、意外と冷静だった。
 手を上げたままで、こちらに銃を向ける男――住井護を観察する。
 全身に葉や折れた枝がくっついているのを見ると、森でも抜けてきたのだろうか。
 呼吸も荒く、肩が大きく上下している。ここまで来るのにかなり走っだのだろう。
(ちゃんと狙い、つけてるんでしょうね)
 マナはなんとなくおかしくなった。
 と、住井がゆっくりと口を開いた。
「人を探している」
 声が上ずっていた。
 自分でもそれに気づいたのか、しばらく呼吸を整えてから、再び言う。
「人を探している。女の人だ。美人で優しい。髪の毛はそれほど長くなくて、背は普通くらいだ。デニムの服を着ている」
 それだけ一気に捲し立てると、また大きく息を吐いた。
 マナは内心呆れていた。
(この人、そんな説明で本気で人が探せると思ってるの? ……末期ね、いい加減)
 そんなマナの心中も知らず、それでも住井は必死だった。

「似た人を見かけたとかでもいい。何か知ってたら教えてくれ。俺が、絶対に護らなきゃいけないんだ……美咲さんは」
 最後の言葉はほとんど自分に言い聞かせているような調子だったが、その小さな声はマナの耳に届いていた。
「美咲さん?」
「知ってるのか!?」
 思わず繰り返した言葉に、住井は掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくる。アップで迫る銃口が、怖い。
「あなたの知ってる人がどうかは知らないけど……澤倉美咲って人なら先輩にいるわよ。
 ちょうどあなたが言ったような感じの人」
「今、名字なんつった?」
「同じこと二回も言わせないで。……澤倉、よ」
 住井はマシンガンを取り落とし、パキッと指を鳴らす。
「ヒャッホーウ! ナイスだ嬢ちゃん! それで? それで? 美咲さんはどこにいるんだ?」
「落ち着きなさいよ」
 小躍りして全身で喜びを表現する住井に、マナは冷静に言った。
「あなたが知ってるその『美咲さん』は、多分私の知ってる美咲先輩だと思う。
 ……でも、ここに来てからは見てないし、どこにいるかなんて知らないわよ」
「なんだとぅ!」
 住井は素早い動作でマシンガンを拾い上げた。
 すっかり逆上してしまったのか、銃口をマナの額に押し当て、叫ぶ。
「ぬか喜びさせやがって! このクソチビめ!」
 条件反射だった。
 殺されるかも、とかそういうことを一切抜きにして、先に身体が動いていた。
 突き付けられた銃身にスッと手を伸ばすと、住井があれっ、という顔をしている隙に、思い切り横に捻る。
「ぐえっ! ゆ、指がぁ!」
「誰が……」
 マナの足が、視界の外で唸りを上げる。
「クソチビよっ!」
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
 伝家の宝刀、必殺のローキックが住井のスネにクリーンヒットした。
 鋭い痛みに言葉を発することもできず、その場に倒れ込む住井。
「ったく、最近の若い人って女の子にマトモな口もきけないわけ? ヒサンね」
 悶え、のたうち回る住井を見下ろしながら、マナは地面をつま先で軽くトントン、と叩いた。

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