時間は遡る…
金だらいネタ爆笑後、かなり移動した三人は巡り巡って水場の上の高台
まで登ってきていた。
周辺に人の気配はなく、見晴らしがいい。こんな情況でなければ風流と
縁のない彼らでも景観に酔いしれたかもしれない。
しかしここにいる約一名だけは何か違うものに酔っていた。
いや、むやみに興奮してるというのが適切かもしれない。
「七瀬!七瀬ッ!」浩平が興奮して喚き、手招きする。
「なによっ、少しは休ませなさいよ!」いつものように肩を怒らせて応じる。
見張りのはずの浩平は水場ばかり熱心に見つめていたのである。
そこには小さな女の子がいた。頭頂部にぴょこんと立ったクセ毛が愛らしい。
でもそれだけで、特に不思議はないし----知り合いでもない。
そんなに凶暴そうでもないし、味方になってもらってどうこうというガラでも
なさそうだった。
「……あのコが、どうしたってのよ?」拍子抜けた不満を隠さず七瀬は尋ねる。
「チッチッチッ…甘いな、甘いぞ七瀬」浩平はご満悦の様子だ。
(どうせまたヘンなこと考えてるんだよ)と遠くに瑞佳の声援(?)を受けて七瀬は
腕を腰に当て少しだけ首を捻り浩平の言葉を待つ。
「あれを見ろ」
視線の先には先の女の子が-----その手にハリセンを持って-----立っていた。
「ハァ(゜д゜)?」情けなさそうな顔をして首の角度を更に横倒しにする七瀬。
「ハリセン?が?どうしたのよ?」
「あれこそ七瀬、お前の為にある武器じゃないか!」
こぁん☆
「バッカじゃないの!あんたは!ハリセンでなにしようってのよ!」
「いや、だからツッコミはハリセンで…」浩平の発言は金だらい連打により
キャンセルされまくった。
そんな中でも「少なくともあの娘よりもお前に相応しいぞ」という発言のみ
明瞭に響き渡り、怒りに火を注ぎまくった。。
「はぁ、はぁ…」肩で息をする七瀬。
「ぜぇえ、ぜぇえ…」頭部が歪んで見える浩平。
(自業自得だよ、浩平…)背中が煤けて見える瑞佳。
「わ、わかった七瀬。ハリセンは諦めるから作戦第二弾だ」
「…めげないわね。言うだけ言ってみなさいよ」
「その金だらいを投下して、あのコを攻撃しろ。古来より金だらいは天から
降ってくるツッコミグッズであってな-----」
こぁん☆
勿論、浩平の自説は最後まで口にすることなくキャンセルされたのだった。