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悪夢〜Nightmare〜


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闇、一面の闇。
浩之はここがどこかも分からないまま走りつづけていた。
「はあ、はあ、ヘンな所に迷いこんじまったぜ…何なんだよここは…」
額の汗を拭う。
(ヘンだな……汗だくだと思ったのに…)
浩之の顔は、かなりの距離を全力疾走したのにもかかわらず綺麗なままだった。
「喉が乾いたぜ……」
口の中がカラカラだ。
携帯したボトルから水を取り出し、一気にあおる。
「……喉の渇きが消えねぇ……」
顔をしかめると、空のボトルを乱暴に叩きつける。
「また水源を探さなきゃな…」
光一つ通らないそこへ、もう一つの声。
「無駄だよ。あなたの喉の渇きは永遠に消えることはないんだよ…」
「誰だ!?」
浩之が銃を向ける。いつの間に持っていたのだろうか。
気がつくと浩之は手に銃を握っていた。
だが辺りは一面の闇。
「出てこい!」
見えざる敵へ恐怖で、浩之の声は震えていた。
「あなたの心が泣いてるよ。赤い涙。もう、血で真っ赤なんだよ……」
唐突に浩之の目の前に現れる、一人の少女。
「あ、あ、……なんで、お前、死んだはずじゃ…俺が殺したはずじゃ…」
後ろへあとずさる。だが、少しも距離は開かない。
むしろ、相手が動いてもいないのにその距離は縮まっていく。
まるで浩之から相手に歩み寄るようにゆっくりと。
少女――瑠璃子は浩之のあごにそっと手を当て、童子のような笑いを浮かべる。
浩之は恐怖のあまり、ピクリとも動けないでいた。
「クスクス、あなたの心が泣いてるからだよ。その心、癒してあげる――」
瑠璃子の唇がその頬に触れる。
「く、来るなぁ!!」
その刹那、浩之が瑠璃子に銃を放つ。
五寸釘が瑠璃子の胸に突き刺さる。しかし、そこから血は一滴も出なかった。
恐怖と狂気が浩之を襲い、脅えに顔が不自然に歪んだ。

「見てみてよ…ほら…あなたのお友達…」
何事もなかったかのように瑠璃子が微笑む。
また闇から一人、一人と現れる。
「藤田くん!良かったぁ、ここにいたんだね。すごく心細かったけど、藤田くんがいれば、
きっと大丈夫だよね。一緒に頑張ろう?」
雛山理緒が不安げな顔を散らして、元気に叫んだ。
だけど、だんだんとその顔が、その腕が、赤く染まって…

「そして、あなたの心に今も生きている人達だよ…」
目に光を感じられないけど、どこか暖かい印象の女の子――
まだ中学生位の無邪気な、少女――
自分の命を救ってくれた、ぶっきらぼうだけど優しかったはぐれ医師――
もみあげが印象的な、笑顔の似合う女の子――。
繊細で、触れただけで壊れてしまいそうな心をもった黒髪の優等生――。
――藤田くん…浩之さん……――
口々に知らないはずの浩之の名前を挙げていって。
だけど、彼女達の視界は、赤く染まって……

「あなたの、親友だよ。」
最後に現れたさわやかな少年。
「ぼくたち、ずっと友達だよね。」
「雅…史…」
泣き笑いで浩之がその少年を見つめる。
「そして……私だよ。」

作り物の真珠のような丸い瞳が浩之を捕らえる。
瑠璃子。
「来るなよ、俺に…近づくなよ…撃つぞ…」
「いいよ、わたしも、まだここで生きてるから…ね?」
浩之の胸に、あてがわれた白く細い手。
「藤田……浩之ちゃん…」
闇が、ひび割れていく。
「来るなよ、おい…来るな、その名で呼ぶな…俺の中に入ってくるなよっ…!!」
――浩之ちゃん――
瑠璃子の姿が歪む…
「やめろ、やめてくれ…あか…り…」
どうでもよかったあの頃。ただ過ぎていくだけの、だけど幸せだった日常。
気が付くと、浩之の頬には一筋の涙。
乾ききった浩之が夢で、心で、だけどここに来て初めて心から流す涙だった。

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