落日。
熱。――左肩に走るのは、どうしようもない痛み。
だが、そんな事に構っている暇はない。
――今は、ただ、――美咲さん。
鞄はさっき、置いて行ってしまった。パソコンも携帯も鞄の中だ。
脱出できる希望は、費えたかも知れない。
――残ったのは、右手に握りしめた、一丁のマシンガンのみ。
それでも、美咲さんを護るには充分だ――
住井は、込み上げてくる吐き気に耐えながら、森の中を彷徨った。
生きている。生きている、生きている。美咲さんも、オレも、まだ、生きている。
――思えば、今まで生きてきた、自分の短い人生には、何ら目的など無かった。
ただ、だらだらと過ごす日常。
なだらかな坂を上るように、ゆるゆるとした日常。
こんな非日常に放り込まれてなお、自分は暢気だった。
――死んでも良い、とも思っていた。
生き残れたら生き残りたい。けれど、死んだって別に構わない。
どうせ、自分には何の目的も、なかったのだから――。
――そこで、彼女に出会えたのは幸いだった。
自分が、目的を無理矢理作ったのかも知れない、とは考えなかった。
彼女を守るという事を自分の目的として、この島で戦おうという――そんな気は、まるでなかった。
彼女を自分の逃げ道にしたんじゃない。
心底、守りたかったのだ。
確かに一緒にいた時間は短かった。
けれど、――共に帰って、笑い合いたいと。
――もう一度、朝陽を見るって。
もう一度じゃない……何度だって、朝陽くらい見れたはずじゃないか。
真っ赤な血が、その土に染みこんでいるのが見えた。
胸からだらだらと血を流して、彼女は俯せに眠っていた。
――そう。
やはり、先程見たものは、幻ではないんだと。
先と全く同じ場所にたどり着き、まだそこにいた彼女を見て、住井は漸く確信した。
オレは――バカだ。
バカだ。
「美咲さんっ……」
美咲の力ない身体を抱き起こし、強く、強く抱きしめ、住井は泣いた。
喪失。――すべての喪失。
それが、彼の慟哭だった。
――殺してやる。
緒方英二。何があっても、殺してやる。
――殺してやる。
全部。全部。全部。全部、そう、全部――。
それが、オレの日常じゃないか。
彼女は、理由なく殺された。
それは、オレの、普段の目的意識を欠いた日常と――
同じじゃないか。
そうさ。目的なんて要らなかったんだ。
「――守りたいものなんかあったからっ」
こんなに苦しまないとといけないんだ――。
左肩に走る痛みなど今や何の問題でもない。
――しかし、今の自分には武器はない。
マシンガンも携帯もパソコンも、全部あの少女に奪われた。
だから、人を殺す事なんて出来ないかも知れない。
だが……一つだけ、見つかった。諦めかかった住井の目に入ったのは――。
――美咲さん、一応、ほら、護身のために、さ。オレにはマシンガンあるし……
そう――彼女に渡した、一人の人を殺している、刃物――。
美咲が強く握りしめていた、――自分が渡しておいた、そのバタフライナイフを。
住井は強く、右手に握った。
美咲さん。