どれだけ走っただろうか。体力は既に限界だった。
どうやら、また森に入り込んでしまっているようだ。適当に走り回ったため、方向感覚がない。
立ち止まって、呼吸を整える。深く吸い込み、吐く。足の傷口がまたズキズキと痛みを訴えていた。
ただ、あの場所にあれ以上いるのはいたたまれなかった。一刻も早く離れたかった。
従姉の顔を見る自信が、なかった。
「どうしてよ……どうしてよ、お姉ちゃん……」
小さい頃から、ずっと慕っていた。
アイドルとしてデビューした時も、自分のことのように喜んだ。憧れとは少し違ったが、大好きなことに変わりはなかった。
……なのに。
「んっ……」
鞄がやけに重く感じた。紐が肩に食い込んで、痛い。
ふと見ると、道のすぐ脇は崖になっていた。マナは崖から少し距離を置いて座り込むと、鞄の中身を改めた。
拳銃。ナイフ。オートボウガン。そしてマシンガン。中身は知らないが、また開けてみる気にもならないが、聖の支給品。
いくら重いとは言え、これらは捨てられない。拾われるわけにはいかないからだ。
救急箱は持っていたかった。いつ必要になるかわからないし、聖の持ち物を勝手に捨てるのも気がひけた。
(返せたら、ちゃんと返すからね……)
続いて携帯電話とノートパソコンに手を伸ばした時、不意に胸が締め付けられる思いがした。
これらは住井からマシンガンと一緒に取り上げたものだ。
名前も知らない少年。由綺に撃たれた、少年。確かにやや危なそうな人間だったが、でも撃たれる必要はなかったはずだ。
(……生きてなさいよね)
携帯とノートパソコンを、崖に向かって投げ捨てる。
大して軽くなったわけではないが、荷物を整理している間に少しずつ自分の気持ちも整理できていた。
今はもう、誰が頼れるというわけでもない。なら、せめてできることだけでも、しよう。
――霧島センセイを、妹さんに逢わせてあげたい。
それはエゴなのかもしれない。でも、他にできることが考えつかなかったから。
妹さんの無事な姿を見せてあげられたら、センセイはきっと安心して眠れるから。
「行こう」
マナは、また歩き出す。今度こそ、たった一人で。
その頃、崖の下では突如後頭部に降って来たノートパソコンの直撃を受けた少年が、もずくを喉に詰まらせていた。