魔獣、その水の下へ。


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柏木千鶴は、地図をスカートのポケットにしまい込み、足音もなく、
森の中を歩く。
(…住宅地は隠れている人間も多い分、危険性が高いわ)
指先の疼きを酷く感じた。
(森もそろそろこの時期になれば罠が仕掛けられている可能性が高い。
あの忌々しい主催のことだわ、参加者が仕掛けてなかったとしても、
あいつが仕掛けているかもしれない。罠は無差別、私がジョーカー
だと見分けてくれる筈はないわ。…見分けて作動する様な罠があった
場合は………。考えないでおこう。これ以上は精神衛生上、良くないわ)
そこまで思考して、ふっと笑う。
(精神衛生上?ダメよ。私はもう狂って居るんだから)
口元の微笑みは柔らかく、優しげなその目は笑っていない。
冷え冷えとした、人ではない者の、瞳。覚醒時の様な、赤黒い色で
ないだけに余計に残酷な色を帯びたその目が、目的の場所を捉えた。
(ここ)
口に出さず、呟く。
そこは川縁だった。森の切れ目から、その川の断片を佇み、眺める。
一見して、清らかな水の流れだとわかった。
(人が生きるのに、水は必要だわ)
慎重に人の気配を読みとる。背後の森へ、そして目的地の川辺へ。
(誰も、近くには居ないのね…)
早く。早く。殺さなくちゃ。千鶴の思考がぐるぐると廻る。
(梓も、楓も、初音も、…耕一さんも。私が、守るんだから)
だから、殺さなくちゃ。他の誰かを。物言わぬ亡骸に変えなくちゃ。
思考を、気配の察知を、研ぎ澄ませる為に、千鶴は川辺へと歩み寄る。
静かだった。静寂に、川の流れの音以外、何も聞こえない。
そっと、水に触れる。
冷たい。心地よく、冷たい。
スカートの埃を落とし、顔を洗って、少しばかり綺麗になったスカートで
顔を拭う。
(さあ、行かなくちゃ)
殺しに。大切な人達を守る為に、だれかの大切な人を、殺しに。

【柏木千鶴、川辺へ移動】

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