悪夢を拭い去るために
兵士達の動きが、さらに慌ただしくなった。
その様子を、丘の上から伺っている晴香達。
「もうすぐ、来そうやね。」
「そうね。…マルチ、あなた飛び道具は持ってるの?」
「鉄砲ですか?いいえ。そうゆうのは持ってないです。」
「…じゃあ、これをあげるわ。」
晴香に渡されたそれは、ニューナンブ。
公民館で入手した、3丁のうちの一つだ。
「あかり。あなたには渡せる銃がないから。ここで待ってて。
あなたの爆弾が、最後の切り札になるかもしれないから。」
すこし寂しそうな表情をみせたが、うなずく。
「…うん、わかった。無事で帰ってきてね。」
「ええ。もちろん。」
「来たで!」
黒塗のリムジンが、基地の前に止まる。
敬礼する兵達に囲まれて現われたのは、やはり高槻だった。
それを見て、智子がイグニッションキーを捻る。
「じゃあ、行ってくるわね、あかり。」
「うん。晴香さんも、智子も、マルチちゃんも。気をつけて。」
「うん。」「わかっとる。」「はいー。」
三者三様返事を返す。そして、向かうべき場所を見据える。
「よおし。じゃあ、突っ込むでー!」
そう言うなり勢いよくアクセルを踏み込む。
そして。
ジープは砂塵を上げ、目指す場所へ突入していった。
「どりゃーっ!」
兵士達をなぎ倒し、高槻へと迫るジープ。
それを見た高槻は、身を翻し、建物の中に消えた。
その入り口にジープを横付けする。
晴香達の前には、それを遮るように、兵士達が展開した。
「じゃまやーどけー!」
タタタタタン、タタタン!
智子の64式による一斉射、そしてマルチの首根っこをつかむ晴香。
「いけえっ!マルチカタパルト弾」
「はわわーっ!」
カタパルトでも何でもないのだが、人間爆弾は思いのほか効果的だったのか。
幾人かをなぎ倒し、兵士達がたじろぐ。
「ふみゅうーん」
抜刀し、駆け抜けざま、晴香はマルチの腕をつかみ、引きずる。
「よくやったわ!」
「ふえーん。あんなコトする人嫌いですぅー」
「…いらない敵をつくるわよ、そのセリフ。」
その後ろを、半身で銃を乱射しながら、智子が続く。
「ぐずぐずしてる間はないでぇ!高槻を追うんや!」
「わかってる!」
そう…わかっている。自分の為すべきことを。
この手で決着を。そして過去の悪夢の清算を。