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一択


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「…誰よ、あんたたち」
二人のうちの片方、ツインテールの子がなんとも女の子らしくないドスの効いた声で訊いて来る。
ちょっと気圧されそうになるけど、平静を装って僕は言った。
「人を、探してるんだ」
「人を?」
そう言いながらも、彼女の殺気は解かれない。
まあ、こんな状況で知らない人に出会ったら、こんなものなんだろうけど。
暫し、睨み合ったままの対峙が続く。
その均衡を破ったのは、
「やめなよ七瀬さん、話くらい聞いてあげようよ」
勝気な女の子、七瀬さんの後ろに居た子だった。

「え〜と、それじゃ、長瀬君と天野さんは、さわたりまこと、って子を探してるんだね?」
はい、と天野さんが小さく頷く。
叔父さんの事は伝えていない。
いち参加者にしか過ぎない彼女達…僕もだけど、が知っているとは到底思えないし、
何よりまだ打ち解けていない状態で下手に僕が主催者側の関係者であることを話すと、
天野さん共々殺されかねない。
僕はいいけど、天野さんが死ぬのは、嫌だ。
だから、まだ叔父さんの事に関する件は伏せておいた。
「それで、その真琴って子はどんな子なのよ?髪型とか、外見とか…」
替わって、七瀬さんが不機嫌そうに口を開く。
まだ僕らを信用しているわけではないようだ。
そんな事は意にも介さないのか、天野さんは平坦な口調で、その沢渡さんの特徴を話し始めた。

……話が終わった後。
「ふ〜ん…じゃあその子、今頃繭に髪引っ張られてたりするかもね」
けらけらと七瀬さんが笑う。
「…いえ、真琴の髪型はそんなに長くないです。
……ところで、その髪だとお風呂のときとかに水を吸って重くなりませんか?」
冷静に天野さんが突っ込む。でも、その言い方はちょっとマズイ気が。純粋に疑問なんだろうけど。
「あたしの髪型が変だって言うのッ!?」
あぁ、やっぱり怒った。
「やめなよ七瀬さん。天野さんもきっと悪気があって言ってるわけじゃないと思うんだよ」
七瀬さんの剣幕に、慌てて長森さんが止めに入る。
さっきからずっとこの調子。
天野さん本人に悪気は無いんだろうけど、どうにもその台詞がいちいち七瀬さんのイタイ所を突くらしい。
でも………
すっかり僕らは、打ち解けていた。

「それじゃあ、そろそろ私たちは……」
「え?行っちゃうの?」
腰をあげ、この場を出発しようとする僕らを、長森さんが引きとめる。
「…そうよ、あんたたち二人で行動するより、私たちと…あともう一人居るけど、行動したほうが安全でしょ?」
天野さんに激しく突っかかって居た筈の七瀬さんも止めようとしてくれる。
正直、とても嬉しいことだ。
「ありがとう。…だけど、僕たちは行かなくちゃいけないんだ」
二人は、もう止めなかった。
結局長森さんも七瀬さんも、天野さんが探している「沢渡真琴」の事は知らなかった。
それは残念だったけど、この狂気の島で、ほんの一瞬でも誰かと楽しく会話をし、
日常を感じる事が出来たのは、幸せだった。

でも、こんな甘ったるい馴れ合いは、島の意に反しているのだと、狂気の中の狂気だと、
僕らはすぐに気づく事になった。

「…良かったのですか?」
「何がだい?」
また二人になってしまった森の中で、天野さんがぽつり、と聞いてきた。
「…いえ、あのまま長森さんたちと一緒に行動したほうが、安全だったのではないかと」
「いや、確かに人数は多い方がいいかもしれないけど……
それじゃ、天野さんが探している人達が探せなくなってしまう」
それに、確かに二人は危険だけど、もしそんな状況になったら、僕が命を捨てても天野さんを守る―――
なんて台詞は、とても恥ずかしくて言えずに喉の奥に飲み込んだ。
「ありがとうございます…」
「礼を言われるような事、してないよ」
結局はこれも、僕のエゴなんだから。
その時だった。

がさり

ほんの、ほんの少し先で、何かが動く。
「…長瀬さん」
天野さんもそれに気づいたのか、声を潜める。
僕は、前方に視線を向けたまま、
「……下がってて」
天野さんを制止させる。

ワイヤーを握る。
さっきみたいに、話が通じるならいいけど、そうでない場合はどうなるかを、
僕らは既に1回、身をもって経験している。
…だから、慎重に行動しなければならない。
「……誰」
僕の気配を察知したのか、草むらから女の子が顔を出す。
驚いた事に、着ている服は色こそ違えど、天野さんが来ているのと同じだった。
そう言えば、天野さんは制服のまま連れ去られ、と言っていた。
だとするならば、この人は天野さんの学校の上級生だろうか?
僕がその子と天野さんを交互に見ている間に、女の子がまた口を開いた。
「…こっちは怪我をしてる人がいる。手を出さないで欲しい」
どうやら、草むらの影にもう一人居て、その子が怪我をしているから見逃して欲しい、と言う事だろうか?
このゲームのルールを考えると、なんとも無謀極まりない申し出だけれど、
殺さなくて済むなら、それにこした事は無い。
僕はそれを快諾し、ポケットの中でワイヤーを握っている手を緩める。
それが、油断だった。
「騙されませんよ……」
草むらの中から、声が響く。
「え?」
突然聞こえてきた声に、僕が反応したのとほぼ同時に。

だんっ

重い音が僕の耳を激しく突き、
なにかの塊が僕の頬を掠める。
視界の端が紅く染まってゆく。頬が熱い。
なんだ?なんだ?一体何が………
――それが、銃弾だと気づくまでに、僕のアタマは数秒を要した。
僕は混乱した。目まぐるしく変化する状況に思考が追い付かない。
「逃げて!」
と、目の前の女の子が言った。
なので、逃げる。
呆然としている天野さんの手を引いて、逃げる。
僕のアタマはちゃんと動いてくれなくて、それしか出来なかった。

「…………はぁ…はぁ…はぁ…」
走って走って、走りつづけた。
どこまで走りつづけたのかも分からないぐらい、走って、
膝が笑ったので、僕らは止まった。
二人で、死んだように木陰に横たわる。
…ようやく、僕のアタマは正常になりつつあった。
……つまりは、騙された、って事か。
甘かったんだ、僕は。
守るだけじゃ、話し合うだけじゃ状況はけして良くならないんだ。
『狂気』である状態が正常のこの島で『日常』を求める事なんて、
狂気の中の、さらなる狂気でしか無いと、今になってやっと気づいた。
…そう、この島のルールの大前提。
――殺して、生き延びろ。
結局、殺す対象の違いこそあれ、
選択肢なんかそれしか無かったって……ことなんだろうか。

【長瀬祐介 左頬を負傷】

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