苦悩
走り去ってゆく二人の背中に、佐祐理は発砲を止めようとしない。
「やめて……佐祐理」
「舞……騙されちゃダメですよー。あの人たちはああやって怪しまれずに近づいてきたところで、
舞を殺そうとするにきまってます」
そう言って、また発砲。
既にわたしたちのほかに誰も居なくなった森に、銃声だけが響いた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
佐祐理は私が守るって、決めた筈なのに。
でも、私の所為で、佐祐理は――――
「あははーっ、逃がしちゃいましたか。でも、舞を殺そうとするからこんな目に遭うんですよ。」
いつもと変わらない佐祐理の笑顔。でも…………
悲しくて。
私には、佐祐理を抱きしめる事しか出来なかった。
「どうしたの、舞?
……大丈夫です。佐祐理がいる限り、誰も舞には指一本、触れさせませんよ……」
その言葉まで、いつもの佐祐理の口調そのままで。
私は、腕にもっと力をこめて、強く強く佐祐理を抱きしめた。