その手を汚す価値


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「茜、何処いったんだろう…」
詩子達と別れてからしばらく、祐一は茜を探し島中を歩き回っていた。
森の中に入って少しひらけた場所に出たところで祐一は突然立ち止まった。
物音がしたような気がしたからだ。
祐一は静かに硫酸入りのエアウォーターガンを構えた。

「やっと、見つけたわよ、相沢祐一」
森の奥からフラフラになりながらも、祐一の名を呼んだのは沢渡真琴であった。
「真琴!」
そう言って、構えたエアウォーターガンを降ろし、今にも倒れそうな真琴に近づき体を支えた。
「おまえ、どうしたんだよ!?」
「あんたのことを探してたのよ」
「おまえ、あの時パチンコ撃って逃げただろ?何であんな事する…んぐっ」
言い終わらないうちに真琴の手は祐一の首をつかんでいた。
「ま・まこと…」
「何でだかはよく覚えてないんだけど、あんたのことがすごく憎いの。だから殺すの…」

そして、祐一は地面に倒れ、真琴はその上に乗った。
いわゆる馬乗りまたはマウントポジションとも呼ばれる体勢になった。
真琴の力は非常によわよわしかったが、長い時間締められているとやはり苦しくなってくる。
「やめろ…やめるんだ真琴!」
ありったけの声を出して叫んでみるが、首を締められてるためあまり大きな声は出なかった。
「まこと?それが私の名前?」
首を締める手が一瞬緩んだ。
「おまえ、まさか記憶がないのか?」
「だから何?あなたが憎いことに変わりは無いもの」
祐一の意識が朦朧としてきた。

もう、だめかと祐一が考えたとき、祐一の頬にぽたりと雫が落ちる感触がし、
閉じかけていた目を開いた。
「何でだろう…憎いはずなのに…すごく憎いはずなのに…」
首を締める手がまた緩くなった。
「ま・真琴…」
緩められた首からゆっくりと呼吸を取り戻し、真琴の頬を流れる涙を拭おうとした。
次の瞬間、また祐一の頬にぽたりと雫の落ちる感触がした。
だが、今度は透き通った綺麗な涙でなく、赤く濁った液体だった。
「まことー!」
もう、完全に力の入ってない手を振り解き、祐一は倒れこんでくる真琴を抱きしめ起き上がった。
そこで見た光景は、ナイフを持ってカタカタと振るえて血まみれになった名雪だった。
名雪はこの場所に来る前に観鈴が投げたナイフの一本を偶然見つけ拾っていたのだ。
「ゆ・祐一、大丈夫?
 この子が悪いんだよ!祐一を殺そうとしてたから」
「なんで、なんでこんなこと…」
「だって、祐一が、ユウイチが…」
名雪は気が動転しているのか、まともに喋れていなかった。
「ゆう…いち…」
真琴が口から血を流しながら名前を呼ぶ。
「もう、いい。俺の前から消えてくれ。
 でないと、俺、おまえに何するかわからない…」
そう言って、エアウォーターガンを名雪に向ける。
「そんな、そんな………嫌、いや、イヤァァァァ!」
そう叫びながら名雪は森の奥に姿を消していった。

「大丈夫か、真琴?」
「あれ、私、どうしたんだろ?
 なんで祐一はここにいるの?」
「もう、喋るな!安静にしてろ」
「あのね、なんか変な夢見てた。みんなでね、殺し合いするの。
 なんか漫画みたいだよね。でね、私は祐一を襲ったりするの」
「うん、わかったから…」
祐一は真琴の手を握りながら話を聞いていた。
「でね、途中で『みゅ〜』て言ってばっかりの女の子に会うの。
 その子はまだ子供だから、まことはその子のお姉さんになってあげたの。
 木の実をあげたり、変な人に襲われたときは真琴が守ってあげたりしたんだから!」
真琴は途中苦しそうな表情を見せながら、祐一にぽつりぽつりと語っていた。
「祐一はいっつも真琴のこと子ども扱いするけど、どう?わたしって、おねえさんでしょ?」
「ああ、そうだな。真琴はお姉さんだな」
「えへへ…もう、今度から子ども扱いしたらだめなんだからね!」
「うん、わかった」
祐一の目には涙が溜まり始めていた。
「ふぅ、なんかいっぱいおしゃべりしたら疲れちゃった。
 なんか眠くなってきちゃった。ぴろはいないけど一緒に寝ていいかな?」
「ばか、ねるな!眠っちゃだめだ!」
「おやすみ、祐一」
握っていた手が力なくだらりとたれた。
「くっ………」
その場はしんと静まり返った。
ただ、一人の男の嗚咽が続くだけだった…

【045 沢渡真琴 死亡】
【091 水瀬名雪 観鈴の投げナイフ1本所持】
【残り63人】

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