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僕とノートとヤンキーと


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 ふう、と一つため息をついて北川潤(男子・029番)はノートパソコンの電源を落とした。

 ノートを立ち上げたとき、初めに北川が目にしたのは、彼もよく知っているありふれたOSの起動画面だった。落下のショックで破損してないことを確認すると、早速ノート内部のシステム周りをチェックしはじめた。あらかた中身を調べてみた結果、彼の確認した限りノートにはただOSがそのまま入っているだけで、まっさらな状態であることくらいしか分からなかった。
 ただ、気になったのが中に挿入されていたCD-ROMだった。表面のレーベルには「02/04」と書かれ、中身を調べても同じように"02"と書かれたフォルダに、同じく"02.nag"と書かれたファイルだけが入っているだけで、他は特に何もなかった。
 ただ、ボリュームラベルに「Cancellation_02」と付されていたこのROMの存在は先ほどから北川の心を捕らえて離さなかった。

「きゃん、せ、れいしょん……か」
 殺し合いもさることながら、腹の爆弾やら、ミサイルやらでこっちはお腹一杯だというのに、ここに来てまた一つ謎ができてしまった。そこで北川は肝心な事を忘れていた自分に愕然とした。それまではレミィ云々でそれどころでは無かったのである。

「そうだ、爆弾だ。アイツが言ったとおり本当に俺達の中に…」

 ──君たちが眠っている間に、胃の中に爆弾を仕込ませてもらった。
 ──遠隔操作で自由に爆発できるようになっている。

 高槻は放送で自分たちの中に爆弾を仕掛けたと言ってた。そしてさらに36時間以内に生存者が25人まで達してない場合、この島を吹き飛ばすとも。そしてその言葉を思い出すと北川は軽い嘔吐感を覚えた。

 ──あ、吐き出そうなんて考えるなよ。
 ──吐いたらその瞬間即ドカンだ。
 ──吐き気には注意することだな。

「くっそ、便通で流れ出た場合はどうなるんだっての。適当なこと言われても困るんだよなこっちはよ…」

 変な先入観があると、どうも自分の身体とはいえ信用がおけなくなる。北川は傍らにいる宮内レミィ(女子094番)を振り返って尋ねた。
「なあ、レミィ。お前、腹の調子が悪いとか変だとかないか?」
「え、どうして? ぜんぜんないともないヨー。オールグリーン! パーフェクトだヨ!」
 ぽんぽんと自分の腹を平手で叩きながらレミィは答える。あれだけ水っぽいもずくを浴びるほど食したというのに、まったくたいした消化器だと北川は思う。
「ん…そうか。わかった」
 やはり杞憂なのだろうか。それぞれの腹に仕掛けられた爆弾。主催者のほしいままに爆破させて人を破壊する爆弾。本来自分達の全滅をあちらさんが願っているのだったら、一挙に爆発させて覆滅させてしまえばそれでよろしい。または高槻が嬉しそうにほのめかしていたミサイルでもよかろう。まさに、どかんと一発、驚きの白さに。
「やっぱりブラフ……なのか?」

 大地にあぐらをかき、あごに指をあてて考え込んだところで結論はでない。だめだ、断定はできない。どう考えても情報が足りなさすぎる。さらにはボリュームラベルのあの単語”cancellation”。つまりは解除か。どういう意味なのだろう。これで何を解除できる? 何が解除される? 爆弾かミサイルか─はたまた彼らの防衛システムか。
 もう一度反芻してみる。実際このノートパソコンやCD-ROMが、あちらさんからの支給品であるとすれば、彼らにとって首を絞める物をこちらに送りつけたとはとても考えられない。また、殺し合いをやってる最中にいくらでも支給品は損壊する可能性がある。結局これらは最初から「あっても無くてもいいもの」、と考えてもいいのだろうか。
 となれば、仮にこのROMやノートが ”解除”されて向こうに痛くないものとはなんだ?

「やーめた」
 あぐらを解いて地面に大の字になって寝転がる。身体を伸ばしたときに全身がぽきぽき音をたててほぐれていくのがものすごく心地よい。
「やめちゃったんですカ〜?」
 よく分かってない、いやおそらく何もわかってないレミィがニコニコしながら北川をのぞき込む。見る人を安心させる微笑みだ、北川はそう思う。普段の彼女ならば、周りに友達や恋人を欠かすことはまず無いのだろう。

「そ、やめちゃったの。普段頭使ってないからさー、なーんか脳ミソがオートミルにかけられちゃってみたいにドロドロになっちまった。冷えて固まってムースになるまで当分は頭使わないことにしたんだ」
「あははっ、ジュンのノーミソがムースになるの? ちょっと振ってみたいデスー」
「だめだめ! 今振られると元に戻ったときおかしくなっちまうの!」
「きゃははっ! いいじゃなーい、なんか、おもしろそーダモン!」
「やーめーろーよーぅーぁー」
 そういってレミィは北川のすこし栗毛がかった髪に包まれた頭を両手でつかんでやさしく揺する。そうやって無防備に自分にじゃれついてくる彼女を見て北川は少し気恥ずかしくなった。

(ん、考えるのはやめだ。後は態度で示すとしますか。)

「さぁ、レミィ・クリストファー・ヘレン・ミヤウチ! 休暇は終わりぬ、だ。僕たちを外の雑音から守ってくれた庇をとっぱらうのは少々心苦しいけれども、そろそろ僕たちも書を捨てて町に出るとしますかぁ!」

 急にがばっと立ち上がった北川に、一瞬面食らった様子だったレミィだが、すぐにいつものスマイルにもどって、親指を彼の前に突き出した。

「イエス! ジュン、わっかりましタァ!」

 ま、殺し合いだけが脱出への方法とも限らないでしょ。地見屋だって立派な職業だしな。そうだろ、護?

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