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光を見つめ闇黒を往く鬼


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(真のジョーカー…)
「そう-----ですか」
構えもなく、だらりと垂らした手の先には鉄の爪。
風になびく黒髪が夜闇のように美しく、開いた左手は薔薇のように紅かった。

ひゅん、と空気が鳴る。
その短い悲鳴が耳に届いた時には既に爪と小太刀が交わっていた。
どちらからともなく、吸い込まれるように二人は踏み込んでいた。
そこに殺意が介在していたかは、誰にも解らなかった。

柏木千鶴 [鬼]。
秋子は前大会参加時の知識で鬼という生物を知っている。
今の自分があるように、彼女もあるならば。
たとえ異能者が、その能力を抑制されてるとは言え-----リスクが高すぎる。
「あなたは、どうして殺すの?
 私は娘のために生きるわ。
 たとえ世界を敵に回しても、名雪のために私は在るの」

小太刀を捻り、右手で爪を抑え、肘を浮かせ、脚を掛ける秋子。
爪をずらし、斜めに流し、腕を捕らえ、小手を握り、爪で裂く千鶴。

千鶴は体を崩しかけ、秋子の手からは浅手とは言え血が滴る。
二人は弾けるように距離をとった。
「わたしは、妹達のために。
 そして愛する人のために。
 たとえ私の心が滅びても、私は足掻き続けるでしょう」

二人の視線が合う。
ふ、と笑ったのは秋子のほうだった。
「お互い苦労してるわね-----心身ともに、ねえ?」
千鶴は何も答えず、ただ力を抜いて秋子を眺める。

「私は行きます。あなたと延々戦い続けるよりも、やらねばならないことが
 ありますから。柏木家の方々も縁があれば助けて差し上げます。了承?」
こくり、と頷く千鶴。
「私も名雪さんと-----縁が、あれば。」

『二人で探すのよ、それだけで縁は二倍じゃない?』
秋子の声は既に遠くなっていた。

目を閉じれば、そこは闇の中。
心の闇の中に、ひとすじの光明。
(あのときと、変わってないわね)

溜息ひとつ。
そう、私は闇黒に飲まれたわけではない。
元から、だった。
私は闇黒と共に生まれ育ったのだ。
(ばかな、わたし-----)
支えていてくれていたのは、妹達の存在だった。

それでも光の中で生きることを諦めかけた事があった。
(このまま殺しつづけて、本当にどうにかなると思っているの?)
あの時助けてくれたのは、耕一さんだった。

また、溜息ひとつ。
目を開けば光の世界。
そう、私は-----こちらの世界に、愛されたい。
(梓、楓、初音、待っててね?)

左手についた血糊を、ぴっと吹き飛ばす。
盛大に血塗られた左手と、その手にのみ握られた武器。
血飛沫ひとつ付着していない右手。肩には痕。
(なんて、アンバランスな。私にぴったりね…)

秋子との出会いは千鶴を微かに光のほうへと引き込んでいた。
しかし、まだ決定的ではない。
足元に横たわる死体を、路傍の石ころのようにまたいで歩き出す。
光を見つめ闇黒を往く鬼。
(ジョーカーを。[殺すもの]を、殺さねばならない。そしてみんなを、助けるの)

「縁が、あれば-----」
自分に言い聞かせるように千鶴は小さく呟き歩き始める。
光を見つめく闇黒を往く鬼。
(耕一さん?もう一度私を-----助けてくれますか?)

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