迷走演舞〜綻び〜


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「千鶴……姉さん……」
楓は思わず鉄の爪を取り落としそうになった。
「楓……」
思いがけない再会。無事でいて……と思い続けたかけがえのない大切な人。
(無事でよかった……)
千鶴は声に出してそれを言うことができなかった。
千鶴が楓に近づこうと歩を踏み出す。
「来ないで…千鶴姉さん。」
楓が呟く。
「かえ……で……?」

楓の視線が一点に注がれる。どこで破れたかわからないがスリット状に変わったスカート、
その上に存在する白い服に……薄く血が着いていた。
そして、先程の殺気。
「また……人を狩るの?……昔みたいに。」
楓の声が、冷たく、刃物のように千鶴に襲いかかる。
「かえで……」
「人を…生きるものを…姉さん…」
自分で静止しておきながら、楓自身も千鶴に一歩近づく。
「……」
千鶴は楓の雰囲気に、圧倒的な威圧感に飲み込まれていた。一歩、また一歩と後ろへと下がる。
「……答えて…答えてリズエルッ!!」
激昂。普段の楓からはおよそ考えもつかないその叫び。
「いや……来ないで…かえで…」
今度は千鶴が静止を呼びかける。無意識のうちに口が開く。
「今度は私達を…狩るんですか?」
静かに、楓が、爪を横に凪いだ――。

「……」
何も言えないでそのやり取りを呆然と見つめる玲子。
その横で、静かなる一人のJokerが薄く笑っていた。

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