迷走演舞〜漆黒〜
「……」
「……」
誰もが無言だった。
千鶴が、ゆっくりと立ち上がる。そして――歩き出す。
楓もその動きを黙って見つめるだけだった。
そして、玲子たちの方へと歩いていく。玲子も、南も動かない。
そして――
(……………。)
「………っ!!」
すれ違いざまに闇が運んできた言葉。
それは千鶴にだけ、かろうじて聞き取れるものだった。
千鶴は、楓を、玲子を、そして南を一瞥し、再び風とともに消えた。
「……姉さん。」
楓も、すぐそばにいた玲子も、その短い一瞬の出来事に気づくことは無く――
(楓……初音……)
千鶴は駆けた。何も考えたくない。
少女の命を賭けた放送――そして。
――裏切ろうなんて、考えないほうがいいですよ。大事な人がいなくなってもいいんですか?
いつ、どこから彼女らの命を奪いにくるか。だって、私も――
Jokerは、まだ生きている。そして死のゲームに魅入られた哀れな人たちも。
(わたしも……同じね。)
千鶴は後悔の念を胸に、走り出した。もう、後戻りはできないのかもしれない。