快晴
この調子で頑張ってくれよ、ハハハハッ………
死亡者発表が終わった。そこに彼女の名は――あった。
「石原麗子…確かに聞こえた。安宅も逝ったか…」
あの時の、彼女の言葉を思い出す。
――軍部はあなたを必要としなかった…でも今はあなたを必要としてくれる人がいるじゃない
御堂は悩んでいた。この島に来てからというもの、まるで自分が自分ではないような気がしてならなかった。
「俺は、強化兵だ。人を殺す…その為だけに造られた、甘えは許されねぇんだ…皆殺し、生き残るにはそれしか――」
――うぐぅ。殺すなんてダメだよっ
「うるせぇ!キレイ事言うな!!俺がその気になれば誰だって殺れる!!生き残るのは俺一人で充分だ!!」
彼は信じられなかった、自分はいつからこんなに他人の言葉に流されるようになったのか…
「坂神だ、とにかく坂神を殺る!それまでは他の奴らも皆殺しだ!!他人の命令なんて死んでも聞くものか!!」
『―――ますか?島にいる、皆さん、聞こえますか?
私は今、森近くの建物の屋上にいます。見えますか?』
放送…少女の声が島中に響き渡る。死亡者報告ではないようだ。
『私は、きっと、これから死ぬことになるでしょう。それは、主催の意に反する
ことをするからです。よく、聞いてください。これは、私の主催に対する宣戦布
告です!』
「何だ?一体誰が―――」
『…あなた達はどうですか?これだけの人達が、同じ時代の同じ国に住む、普通の
人達が、殺し合いをさせられているのに、自分のことだけを思い、自分の大切
な人だけを守ることしか、できないのでしょうか?
…私は、嫌です。そんなことは死んでも、したくありません。
自分や、大切な人を守るために、誰かの大切な人を殺すだなんて、そんなこと
は出来ません。
もし、私に同意をしてくれるなら、手を取り合って人の皮を被った悪魔
の魔手から、逃げ果せて下さい。方法は、必ずあるはずです』
自分の邪魔ばかりしていたあの少女の言葉を思い出す。
――みんなで一緒になればきっと帰れるよっ
見知らぬ少女の訴えは続く。
『人は弱いものです。とても弱い。…嫉妬、劣情、…劣等…。あり
とあらゆる、負の感情があります』
なぜか嫉妬、劣情、劣等だけが御堂の耳にひときわ大きく響いた。
それは彼が坂神蝉丸に対して抱いている感情でもあったからだ。
『疑うのも、争うのも、止めて、協力しあってください。
活路は醜い争いからは生まれません。決して、生まれないのです。
さあ、考えなさい。あなた達が、今するべき事を。本当の敵は誰か。想い出して
下さい』
『ガクッ』
ふいに異様な音が聞こえた。
御堂は悟った。少女の命が短い事を…腹の中の爆弾とやらが暴れ出したのだろう。
『聞こえますか?私は、もう、ダメです。でも、悲しまないで。私は私の誇りに
従って、戦うことが出来たのです。私はこうして、私を守りました。
だから、蝉丸さん、月代ちゃんをみんなを守ってあげてください。
私は、こんなことしかできないけど、でも、蝉丸さんなら、切り抜けられる。そう、
信じてま……』
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「なるほど、坂神の連れか…道理で強ええワケだ」
御堂は大きく息を吸った。そして、あの少女の声に負けないほどの大声で叫んだ。
「坂神ぃーーーー!!!!貴様との勝負はこの島を出るまでお預けだぁーーーー!!!!
俺は貴様を殺すまで絶対に死なん!!!!だから貴様も俺以外の奴の手にかかるんじゃねぇぞぉーーーー!!!!」
「どうやら俺は闘り合う相手を間違えてたみてぇだ、予定変更だ…行くぞ、獣共」
「にゃ?」
「ぴこ?」
御堂の表情はこの島の空のように雲ひとつなく、快く晴れていた。