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ジョーカー・ジョーカー


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「こ、この声は!?」
 助言で聞いた建物を求めて歩いていた弥生は、林の中で出会った女の声に
気が付いた。
 弥生は放送が終えるまで、と立ち止まった。
 そして、それが終わるまで耳をそばだてて聞いていた。
 放送は、むなしい爆発音と共に終わりを告げた。
 おそらく、きよみの信念は美しいのだろうと思った。
 しかし、弥生に理解できたのは、愛しい人たちに殺し合って欲しくない、
死んで欲しくないと言う部分だけだった。
 確かに他の方法もあるかもしれない。しかし、それが見つかる前に大切な
人間を失ってしまったら、どうするのだろうか。
 それに、弥生が脱出プランの一つに数えていたものは、どうやら使えそう
になかった。
── やはり、というべきなのでしょうか。腹部の爆弾というのはブラフ
ではなかったようですね──
 例の女が別の爆発物で殺された可能性も無いわけではなかったが、あまり
にもタイミングが良すぎる。
 やはり、現在のところ判明している脱出手段は、殺して、殺し合って、
殺し合い抜いて、最後の一人になることのみ、ということになる。
 主催者達を何とかやり込め、脱出の活路を求める、というプランは体内に
爆弾を抱えた状態では実現不可能だった。
 何とか、何とか助かる方法を見つけなくてはならない。
 既にあの方(英二)は逝ってしまった。
 次があの二人にならないとは限らないのだ。
 或いは、もう……。
 とにかく、まずは二人に出会うことだ。そして、助言の建物に……。

「どなたです!?」
 背後に気配を感じた弥生は散弾銃を構えて向き直った。
「おー、怖い怖い。撃たないで下さいよぉ?」
 のんきな声を挙げて出てきたのは黒服の男だった。
「あなたは?」
「1,ゲームの参加者ではありません。
 2,むしろ主催者側の人間です」  
 そこで、弥生は男に向けた散弾銃を強く握り直した。
 男は言葉を続けた。

「3,大切な人を守りたくて仕方のない貴方に提案があります」
「!?」
 男はにやりと笑う。
「おや、表情が変わりましたね? ビスクドールのようだとか、中にはくすだ
えりこが入っているに違いないと言われた貴方が、温度を感じさせないとまで
言われた貴方が、他人のことで表情をそこまで変えられるとは……。情報は
確かなようです」
「くっ」
「そんなにあの二人が大切ですか? 大切なんでしょうねぇ。自分の命を
犠牲にしてでも守りたい。イヤ、感服しました。そんな貴方にご提案がある
のですよ、ハハ……」
 男は散弾銃を突きつけられているにもかかわらず、笑いながら続ける。
「貴方にはジョーカーになっていただきたいのです」
 弥生は男の意図することが分からず、首を軽くかしげて続きを促した。
 男は、『よろしい』とばかりに頷き、続きを口にし始める。
「ジョーカー……。つまり、このゲームの参加者でありながら、むしろ我々に
近い立場になって、ゲームの進行をスムースにしていただきたい。そういう、
特殊な役割を演じていただきたいのですよ。そうしていただければ……」
 男はそこで言葉を切って、弥生の表情を確かめる。
 弥生の瞳は、その奥に訝しげな光をたたえているが、話には引き込まれた
ようだった。
「そうしていただければ、貴方の大切に思う二人が他の者に殺されることの
ないように、対処して差し上げましょう」
 言い終えて男がニヤリとするのと、弥生がそれに指摘を加えるのは同時だった。
「それで、主催者様のカードには何枚のジョーカーが入っているのですか?」
 ぴく、と男は一瞬だけ表情を変えた。しかし、すぐにその顔に張り付いて
いた笑みを呼び戻す。
「なんのことですかな?」
「あと何人とそのような約束を交わしているのかと聞いているのです」
 再び銃口を向けられ、男は戯けてみせる。
「さすがはあの緒方プロを裏方から支えてきただけのことはありますな?」
「戯れ言は結構。この程度のことは多少人生を歩んでくれば誰にでも浮かぶ
疑問です」
「ふむ、おだてにも乗らない……と。噂通りのお方だ。しかし……」
 男は値踏みするように弥生の体を、足下から首筋まで舐めるよう見つめた。

 おお……と男はやや芝居がかった感嘆の声を挙げる。
「いやぁ、実物は映像で見るよりも数段素晴らしい。その放漫なボディーには
不釣り合いなぐらいのマスク。どうです? 無事に本土に帰れたら、グラビア
モデルとしてデビューされては? っと、その怖いくらいの視線で、若者の心
は釘付けですな」
 弥生の視線を受けてもまるで動じない黒服の男。果たして人間か。
「それで、お話を戻しましょう。冷徹な、そして美貌の女ヒットマン……。
ムーヴィーではややありきたりの設定かもしれませんが、これが現実の話と
なれば、観客も大喜びでしょう。少しずつペースは挙がってきていますが、
ゲームはもっと刺激的でなくてはなりません。どうです? ご納得、いただけ
ましたでしょうか? 」
 弥生は迷っていた。この男が言うことの何処までが信じられるだろうかと。
――おそらく、私のような誘いを受けた者は何人かいるのだろう。しかし、
誰が、どのくらいの人数で承諾したのか。それが問題だった。さらに、この男
の言うとおりにしたとき、約束が守られる可能性は? 純粋にゲームを加速
させるためだけであるならば、守られる可能性もあるかもしれない。しかし、
約束が守られなかったことで、絶望する人間の顔を見ることまでが望まれて
いるとしたら……――
 弥生の思考を妨げるように、男がやや冷たく言い放つ。
「そうやって沈思黙考されるのも結構ですが、貴方様がご指摘なされたように
今こうしている間にも、他のジョーカー達が行動を起こしているかもしれません。
ご決断はお早めがよろしいかと思われますが?」
 弥生は答えを出さざるを得なかった。
――こうしている間にも二人のみに危険が迫っているかもしれない。そして、
あの二人は虫も殺せぬような暖かな人間なのだ。私はあの暖かさに惹かれたのだ。
それだけは確かだった。あの二人を守るためになら、私は修羅にでも成れる――
「それで、……具体的にはどうすればよろしいのですか?」
「おお、お受け下さるのですねぇ。さすがは賢明なる弥生様。そうですねぇ、
ざっと十人。そう、十人を殺していただければ、貴方とお二人には配慮を
いたしましょう

「十人……。私がそれを成し遂げるまでの間、お二人は?」
「それは我々の知るところではありません。ですからお早めに願いますよ?
全てが手遅れにならぬように」
 弥生は舌打ちをする。
「では、十人を殺したときにはどうすればよろしいのですか?」
「これを」
 男は手で握れるほどの大きさで、小さなスイッチのついた物を弥生に手渡した。
「これは?」
 弥生は今度は首をかしげたりなどせず、言葉で先を促した。
 気が急いているのが自分でも分かっていた。
「これは発信器のような物です。十人目を殺した時点でこのスイッチをお押し
下さい。すぐさま処置が行われるでしょう」
「最後にもう一つ。私は既に一人の少年を殺しています。これはその十人に
数えていただけるのでしょうか?」
 男は顎に手を当てて焦らすように、口元には笑みを浮かべつつ考え込んだ。
 弥生にとっては今や、一秒が一分、いや一時間にも匹敵する感覚だ。
 無闇な質問で出発を遅らせることになるのならするのではなかったとさえ、
思えてきた。
 実時間で1分ほど、男は考えた上で答えを出した。
 口元には笑みを浮かべつつ、結論を口にする。
「本来、その少年は貴方が自由意志で殺したものです」
 断じられて、弥生は動揺した。
――そんなことで動揺していては、残りの十人は殺せない――
 何とか心を落ち着かせようとする弥生を、男は楽しそうに見つめていた。

「しかし、我々はサービス精神が旺盛です。その少年を約束の十人に数えて
あげましょう」
 そこまで男が言ったところで、弥生は走り出した。
 それ以上は待てなかった。
――早く! 一刻も早く! あと九人の生け贄を捧げなくては! 二人が
殺される前に!――
 弥生は疾走する。
―― 自分が二人と幸せな生活をするというのはアンリアルだ。今私が望む
べきは、二人の意思を尊重した上で、由綺さんをトップアイドルにして差し
上げること。それ以上は望まない。私は既に一人の人を殺してしまっている。
これ以上何人殺そうと、今更大きな違いはない。今までだって、多くの犠牲の
もとに生きてきたはず。それがたまたま今回は他人の命であるだけ。それに、
もう、藤井さんと体を重ねることもない。どんなに綺麗にしようとしても、
もはやことを成し遂げたあとでは殺意の抱影は消えないだろう。由綺さんを
幸せにする。藤井さんと、幸せに暮らさせる!!――

 獲物を求めて、疾駆する弥生。
 二人が既に、幾人もの命をその手に掛けていようとは思いも寄らずに……。

【篠塚弥生:二人を見逃してもらう契約で、あと九人を殺すべく奔走 】
 アイテム:発信器のような物を黒服の男からゲット
 武器は散弾銃のまま。

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