太陽は、高く頭の上にある。そろそろ正午か、それくらいの時間なのだろう。
放送がかかったのは、そんな時間帯のことだった。
聴神経をいちいち引っ掻き回すような、耳障りな高槻の声。どうしても耳を塞いでしまいたくなる。
だが、それはできない。どれだけ目を背けたくても、今ここで現実から目を逸らすことはできない。
そうして、また死者の名前が楽しそうに読み上げられる。
(緒方英二……? ッ、澤倉先輩……!)
マナの表情が暗くなる。
緒方英二。由綺の所属する、緒方プロダクションの経営者。
多くのアイドルを世に送り出してきた彼の名前は、ラジオで歌番組をよく聴くマナには由綺のデビュー前から聞き慣れたものだった。
そんな有名人がこの島で死んでいることにも驚いたが、それよりもむしろ美咲の死ははるかに衝撃的だった。
『蛍ヶ崎学園の最後の良心』と皆から慕われていた美咲。マナも憧れ、尊敬していた。
――すごく、尊敬していた。
(限界……かもね)
この島のどこかに、英二を、そして美咲を殺した人間がいる。
その他、マナの知らないどこかの誰かを、やはり殺した人間がいる。
しかし一方、これまでに名前を呼ばれた死者のうち、誰かは従姉である由綺が殺したものであり――
今の放送で呼ばれた人間の中に、もしかしたら由綺が、冬弥が殺した人がいるのかもしれない。
知り合いが人に殺され、知り合いが人を殺す。
若干十七歳の少女が受け止めるには、一連の出来事は余りにハードで、重すぎた。
(私が何かすれば、何をすればなにもかもがうまくいくの……? ……セン、セイ)
心の中でさえ、頼れる人間は既に聖しかいなかった。
そして、聖はもういない。
「ぅあっ……!」
左足に激痛が走り、地面にへたり込んでしまう。
血の滲んだ包帯が解けかけていた。
だらしなく引き摺られ、薄汚れた包帯が、マナにはなんだか自分自身と重なって見えた。
「…………」
少し向こうで、人の足音がした。
マナは呆然とした表情のまま、ポケットの中のメスを握り締める。
話し声が近づいてきた。
「はぁ……わかったから、とにかく、その握った手を離してちょうだい」
「ダメだよぉ、はぐれちゃったら困るでしょ? ……あれ〜、誰かいるねぇ」
「ちょっ、そんな大声で……って……あなた、一体なにやってるわけ?」
瞬間の出来事だった。
マナは、現れた二人に向かって飛び出した。
その手に輝く銀色の刃物を認め、きよみは焦った声を上げた。
「なっ、なんで――」
それは彼女のミスだと言えた。一瞬の判断の遅れが、いざという時には生死を分ける。
だがどちらにせよ、きよみに避ける時間はなかった。マナは、その目の前に踏み込むと――
両手できよみの手を包み込み、メスを握らせると、手は握ったままで、膝から崩れ落ちた。
不可解な展開の連続に、きよみはすっかり混乱していた。
「あ、あなた、どういう……」
「――さいよ」
「何? 聞こえないわ」
マナは視線を上げ、きよみの目を正面から見つめ、言った。
「殺しなさいよ。……殺してよ……」
きよみの足元にすがりつき、丸めた背中を震わせ、マナは泣いた。