「ねえ……ねえってば……ああもうっ!」
御堂(089)が柏木梓(017)、月宮あゆ(061)から別れて数時間、梓たちはその場から一歩も移動していなかった。いや、出来なかったというべきか。
その原因は御堂と別れた後に聞こえた放送。
その放送は普段のものとは違った。あの嫌な高槻ではなく、若い女性のものだった。
内容も普段の死亡者報告ではなく、休戦、そして皆で力を合わせて助かろうというものだった。
そしてその放送をした女性は……殺された。
おそらくは主催者側の手によって。
彼女の持っていた拡声器(梓はそう判断した)はその一部始終を生々しく伝えた。
その凄惨な状況により、月宮あゆは恐怖におびえ、その場で震えることしか出来なくなっていた。
それから数時間、梓がどう説得しようとも、あゆはまったく動こうとしなかった。
(しばらくは駄目か。そりゃそうだ、アタシだって……)
頭の中に浮かぶ情景。それを梓は頭を振って払いのけた。
「ふぅ…仕方ない、しばらくここにいるしかないか。でもこんなとこを誰かに襲われでもしたら……」
大ピンチだろう。自分はともかくこの子が危ない。
そして自分はこの子を見捨てることは出来ない。
梓はそう判断していた。
「誰にも出会わないことを願うしかない……か」
そうつぶやく。
しかし世の中とはそううまく行くものではなかった。こういう場合はとくにだ。
目の前から人の気配。
梓は身構えようとし、横にいるあゆを気にした。
(どうしよう……この子……守りきれる?)
相手が一人ならともかく複数だと無理だ。敵でないことを願いつつ、梓はあゆにバッグの中から取り出した服をかぶせた。
「聞いてるかどうか知らないけど、一つ言っておくから。アタシはあんたを見捨てたりしない。絶対にね」
そして目の前の木の陰から姿をあらわしたのは
「千鶴姉!」
側から見ると満身創痍の柏木千鶴(020)だった。