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「起立、気を付け、例っ」

日直の号令が、今日の学校生活の終わりを告げる。
僕はひとつ伸びをすると、鞄を持って教室を後にした。

「ゆーくん、じゃあねー」
沙織ちゃんが体育館の入り口から元気に手を振っている。
僕はちょっと照れくさかったので、ひらひらと手のひらを動かすだけにしておいた。

そのとき、ふと体育館の裏のほうに歩き去ってゆく人の姿が目に入る。
(……あれ?あれって……)
叔父さん、だよね……
部活の顧問を受け持っているわけでもない叔父さんが、なんで体育館裏に歩いて行くのか?
(なにやら犯罪の……いやいや、ミステリーの匂いがするな)
つまらない事に首を突っ込むなと言う冷静な僕も、溢れ出る探求心の前では勝負にならず、
僕はこっそりと叔父さんの後を尾行ることにした。

体育館裏の、ちょうど袋小路のような場所。
そこに叔父さんは居た。こっそりと覗くと、誰かに電話をかけているようだった。
建物の影に身を隠し、聞き耳を立てる。
盗み聞きは悪事?知ったこっちゃ無い。
「………ええ。順調ですよ。…………ええ、ええ。
こちらも候補者の目処はつきました。きっと思う存分…………」
ちょっと場所が離れているので、何を言っているのか断片的にしか聞こえない。
なので僕は、
(なんかテレビアニメの悪役みたいな事言ってるなぁ……)
この程度の感想しか持つことは無かった。


あの時、僕が何か感づけていたならば、誰も悲しむ事は無かったかもしれないのに―――

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