夕焼けの空の下で
…ざぁーっ…
夕焼けの海岸。
打ち寄せる波。
海面から突き出ている奇岩。
そこに腰をおろし、休息をとっている浩之。
そこから僅かに離れた場所に、ジープが到着する。
そのシートから降り立つ、あかりたち三人。
遠目に浩之の姿をみとめ、そっとあかりの背を押す智子。
あかりは頷き、ひろゆきの元へと歩いていく。
「…これは、賭けやな。」
殺戮者となってしまった浩之に、あかりの言葉が果たして届くのかどうか。
だけど…信じよう。二人の絆を。そして、あかりの想いの強さを。
…さく、さく、
近づいてくる足音。
閉じていた目を開け、顔を上げる。
そこには…ずっと会いたかった、本当に会いたかった、愛おしい少女の姿があった。
「……。」
言葉を交す事なく、見つめあう二人。
その時。少女の目から、ひと雫の涙がこぼれた。
「あかりっ!」
立ち上がり、抱き寄せる。
頬をすり寄せ、その暖かさを感じる。
言葉にならない想いがもどかしくて…二人、唇を合わせた。
「ここに来て…いろんな事があったね。浩之ちゃん。」
「…ああ、そうだな。」
本当に、いろんな事があり過ぎた。
「わたしね。最後に浩之ちゃんに会えて、本当にうれしい。」
そっと体を離すあかり。
「幸せだよ。とっても…だから、これで終わりにしたい。」
そう云い、あかりは自らのこめかみに銃口を当てる。
「あ…あかりっ!、なんでだよっ!」
「わたし、…汚されちゃったんだ。だからもう、浩之ちゃんとはいられない。」
どういう事だよ…。言葉を失う浩之。
「イヤなことがたくさんあった。だから、今、幸せなうちに、終わりにしたいんだよ。」
カチリ、と戟鉄にあてた親指を動かす。
「やめろよ!どんなになろうと、俺は…おまえが好きなんだ!それじゃぁ、ダメなのかよ!」
そう言う浩之に、あかりは涙を流しながら笑顔を向ける。
「ありがとう。わたしも大好きだよ。…さよなら。」
そう言って…引き金を引いた。
「あかりぃぃぃぃーっ!」
「大丈夫なんやろな。」
そう、つぶやく智子。
「はい。渡す前にちゃんと抜いてあります。」
「そうか…。」
言って、あかり達をみつめる智子。目を細める。
「…どうして…」
泣き崩れるあかり。
「ばか、死ぬやつがあるか!」
ひざまづいたあかりを、浩之が強く抱きしめる。
「俺だって汚れてる。この両手は。たくさんの血で」
その両手を握り締める。
「償わなくちゃいけない。そしてなにより、おまえを一人にしてしまったことを…」
少し身体を離し、あかりの目を正面に見据えながら、言う。
「償わせてくれ。俺は、お前を守る。どんなことがあっても。」
「ひろゆきちゃん…」
「だから、今は俺に、おまえの命をあずけて欲しい。な、あかり」
「ひろゆき…ちゃぁん。」
再び抱き合う二人、深く、深く。
そして少年の決意も、深く、力強いものだった。
「…行こか、マルチ。」
「えっ!? お二人に会わなくていいんですか?」
遠目に浩之たちを見やりながら、智子は言う。
「人の恋路をジャマするやつは…って言うしな。二人きりにさせとこ。それに。」
マルチの頭をかいぐりと撫でる。
「今のあんたは、結構頼りになるしな。うちら二人でもなんとかなるやろ。」
智子から初めて褒められて、顔を赤くする。
「あ、ありがとうございますぅ」
「生きとれば、また出会えることもあるやろ。だから、行こうや。」
「はいっ!」
返事をし、アクセルを踏み込む。
…クマのぬいぐるみと、そして幾許かの銃弾。
それだけを残し、ジープは海岸から去っていった。