決意
森の中を、ゆっくりと進みゆく4人の姿があった。
前を行くのは、スフィー(050)と江藤結花(009)。
後ろには、長谷部彩(071)と来栖川芹香(037)。
そもそも4人は、社での戦いの時に別れ別れになった仲間と落ち合うという目的があっ
たのだが、自分たちが逃げたルートを全く覚えておらず、結果あっちをウロウロこっち
をウロウロと、実に不経済な移動をせざるを得なかった。
「もう疲れちゃったよぉ〜」
スフィーが思わず道の真ん中に座り込む。
「何言ってんのよ! 私だって疲れてるわ」
「だってぇ〜」
「大体スフィーが道を覚えてないからこういう事になるんでしょ!」
「結花さん、落ち着いて下さい…」
「………」
こういういざこざも、もう何度目になるだろうか。
長い距離を歩いたおかげで、4人の気分もすさみ始めていた。
その時、頭上の木がガサガサと変な音を立てる。
「!」
芹香が何かを感じ取った様を見て、他の3人も黙り込んだ。
そして、不意に頭上から声がした。
「あらあら、こんな所にいらっしゃったんですね」
そう聞こえたのとほぼ同時に、4人の前に音もなく人影が現れた…現れたというよりは、
降ってきたとでも言った方がいいのだろうか。
「さっきはもうちょっとの所で取り逃がしましたけど、今度はそうはいきませんよ」
その声の主こそ、牧村南(080)であった。
4人は多かれ少なかれ驚いたが、その驚きの時間さえ南は与えなかった。
矢継ぎ早に飛んでくる手裏剣をよけるように、二手に分かれて道の脇へ逃げた。
右にスフィー・長谷部彩、左に来栖川芹香・江藤結花。
しかし、南はすぐさま右に駆け出し、あっという間にスフィーの前に立ちはだかった。
「そこまでですよ」
一瞬のうちにスフィーを抱きかかえると、首筋に手裏剣の刃を押し当て、
「みなさん、早く姿を現して下さいね。そうしないと、スフィーさんの身の安全は保障しませんよ」
「南さん…、やめてください…!」
「あら、長谷部さんですね? こんな所でお会いするとは奇遇ですね」
「スフィーさんを、放してください…」
「いくら長谷部さんの頼みでも、そういうわけには行きません」
「南さん…、違う…、いつもの南さんじゃない…!」
「いえ? そんなことはありませんよ」
場の緊張感など全く感じていないかの様に、にこやかに南は答えた。
「長谷部さん、私がどうしてスフィーさん達を狙っているか、わかりますか?」
「………」
「この人達が、結界を破ろうとしたからですよ」
「結界…?」
「そう、私は結界を守るため、そして"力"ある者を倒すため、雇われたんです。スタッフとして」
「………、そんな…」
「だから、スフィーさん、そして芹香さんを…」
「もういいですっ…!」
振り絞るような声で、彩が叫ぶ。
「南さん…、こんな事する人じゃなかったのに…。見損ないました…」
彩の視線が、次第に鋭さを増す。
「私だって、人を殺したくはありません。でも、南さん…、今の南さんを見ていると…」
彩は、ポケットからゆっくりとトカレフを取り出した。
「スフィーさんを放してください。そうしないと…、あなたを…、撃ちます」
さっきまで持っていた南への迷いは、吹っ切れつつあった。
ゆっくりと両足を開き、地面を踏ん張り、銃を南に向け身構えた。
「あらあら、長谷部さん。あなたに拳銃なんて似合いませんよ」
「………」
南の言葉にも、彩はトカレフを降ろそうとしない。
お互い無言のまま、時は流れる。
南は彩に狙いを定めるべく、スフィーに突きつけていた手裏剣を構え直した。その時、
「痛っ!」
南の横っ腹にスフィーの渾身の膝蹴りが入った。一瞬の隙をつかれ、南は思わずスフィーを放しよろめく。そして、
パァーン!
彩のトカレフが火を噴いた。
しかし、弾道はあさっての方角へ伸びていくだけであった。
スフィーがいたからか、単に手元が狂ったのか。
そして発射の衝撃に耐えられず、彩はその場に倒れこんでしまった。
南はスフィーの逃げた方角へいくつか手裏剣を放ったが、動揺のせいか当たらなかった
ようである。
そして、スフィーを追おうとした南に、彩が叫んだ。
「南さん…、私が相手です」
地面に伏せた形になっていた彩だが、銃口はなおも南に向けられていた。
「うふふ、長谷部さんもいい度胸です」
ゆっくりと振り向きながら、
「じっとしててくださいね。今すぐ私が楽にしてあげますから」
と言いつつ、懐に手を伸ばした。しかし、
「…あら、手裏剣切れちゃったみたい。私としたことが、ちょっとミスっちゃいましたね」
南はペロッと舌を出した。
「でも、こういうのも用意してあるんですよね〜」
背後から取り出したのは、ビッシリと釘が打たれたバットだった。