嫉妬
「笑えない私笑えない笑えない私笑えない笑えなくなっちゃたよ…」
名雪は呟きがらながら歩く。
「何で何で何でこんなことになったの、何が悪いの教えてよ祐一…
私悪くない悪くないよ、祐一を守ったんだよ祐一のためだったんだよ…」
名雪の呟きは止まらない。
「またなの、また私の思いを踏みにじるの、祐一」
名雪の脳裏に叩き潰された雪ウサギがうかぶ。
それは7年前、傷ついた祐一のための名雪の精一杯の気持ち。
踏みにじられた気持ち。
あの日の夜も名雪は布団に包まってこんな風に呟きつづけていた。
何が悪いんだろう、何でこんなことになったんだろうと、
何で祐一は私に振り向いてくれないんだろうと、
何で私はたった一週間ばかりしか過ごしていない女の子に負けたんだろうと、
あの子にあって私にないものはなんだろうと、
あの日から、名雪はずっと考えつづけてきた。
何度も眠れぬ夜を過ごしてきた。
それでも、祐一は帰ってきた。あの子はもういない。
今度こそ祐一は私に振り向いてくれるだろう。
自分でいうのもなんだけど、私はきれいになったと思う。
きっと祐一は私に振り向いてくれる。
だけど、またあの子が私たちに前に現れて…
「そっか、悪いのはあの子なんだね。」
祐一が私の思いを踏みにじったのも、私の前からいなくなったのも、全部全部。
「クスッ、泥棒猫さんだよ、あゆちゃん。」
みんなみんな嫌い、誰も信じられない。だけど、その中でもあの子だけは許せない。
「また、祐一もあゆちゃんにだまされちゃって…紅しょうがぐらいじゃ許さないからね。」
名雪の声が次第に明るいものになっていく。
「そうだ!まずはお母さんを探さなきゃ。」
誰も信じられない、誰も信じられないけど、
お母さんは別だ。お母さんだったら私のお願いをきっとかなえてくれる。
いつものようにやさしい顔で、手に頬を当てて、
「了承」って言ってくれる。
「お母さんならあゆちゃんと祐一に『お仕置き』をしてくれるよね。」
名雪は弾んだ声でそういった。