壊れた小銃
(うまくいった……)
姫川琴音が走り去った後、彼女に銃を渡した男は内心ほくそ笑んだ。
あの小銃は『壊れている』。
撃ったらまず間違いなく暴発し、使用者の命を奪うはずだ。
銃の扱い方を教えた際、「残弾は少ないから」と言って試し撃ちをさせなかった。
そんなことをされたら、わざわざ壊れた銃を渡した意味がない。
そもそもあの銃は、焼け落ちた公民館から偶然拾った物だった。
だが少し調べてすぐに、この銃は使える状態にないことがわかった。
銃の知識は、その程度には持っていた。
そこで男は思い付いた。
少しでも自分の良心が痛まないように、誰かを殺す方法を。
自分が手を下す必要はない。勝手に死ぬように仕向ければいい。
(あの銃を使うか使わないかは彼女の判断だ。
運が良ければ生き残るだろう。
悪くない。自分は悪くない。
悪くない。何も――)
一日目に百貨店から無目的に奪ってきた黒いコートをなびかせて。
男、巳間良祐は、その場を後にした。
残された空間には、ただ、乾いた風が吹くばかりだった。
琴音は走る。
壊れた小銃を手に。
ターゲットがどこかにいないかと、探りながら――