優しい嘘
「………」
楓がそのままの姿勢で女を見下ろした。
――この島でこの状態ではもう助からないだろう――
それほどその人は傷ついていた。
「あら、あなた……追ってきたの?」
「はい……あの話を知っているあなたが生きているのは……都合悪いですから。」
「……そう。」
南がいつものように、笑って。
「ただね……夢を叶えたかったんですよ。私の夢をね。
こみパのような、大きな即売会を――。」
南と主催者の間で、どんなやりとりが行われていたかは分からない。
だが、南の表情は終始穏やかなまま。
「ひとつだけいいですか?どうせ死ぬんですから、どうだっていいと思います。
嘘も方便ですし。私は改心した、そう思ってくれませんか?」
楓が無表情に頷く。
「別にどうだっていいんですよ。私は……どんな理由があろうと…
ジョーカーなんですから。」
「……」
「ただ、最後には……夢を見させてあげたいじゃないですか。」
「……そうかもしれません。」
南が最後に、彩の最後に果てた場所を一瞥し――。
傷つきすぎたその表情は、もう楓には分からなくて。
「殺るんでしょ?どうぞお好きに。この状態じゃ、どうせ助かりませんから。
このまま生き長らえてもつらく、痛いんですよ……。」
本当に最後まで変わらぬ口調。
「はい。」
楓の鉄の爪が光る。
「和樹さん達にも嘘をついてくださいね。」
ドシュッ!
同時に楓の爪が南の胸に深く食いこんだ――。
(……本当は誰よりも哀しい女性だったのかもしれませんね。)
楓は南の亡骸に軽く会釈して、また森へ消えた。
080 牧村南 死亡
【残り53人】