反転
緊張感は、長くも続くはずはなく――
「みゅーっ、おなかすいた……」
林の中で座り込み、繭はぼやいた。
幼い精神構造をしている繭にとって一時の感情というものは長く続かなかった。
新たに押し寄せた空腹感、それに、恐怖が負けていた。
「みゅーっ……」
困り果て、鞄の中を探る。
中に五つのキノコが入っていた。
「……うー」
先程までの自分の鞄に、こんなものが入っていたのか?
そんなことはどうでもよく、キノコをこのまま食べるかどうか、悩んでいた。
「…………」
しばらく、キノコとにらめっこ。
やがて、意を決したようにキノコを手にとり――
「ぱく」
口の中へ放り込んだ。
「さて……これからどうしようかしら」
繭はひとりごちた。
その声に、先程までの幼さは、全くない。
(とりあえず、この馬鹿馬鹿しいゲームから、生きて帰らないと。
でも、そのために人を殺すなんて……最低ね。
何人かで集まれば行動のとりようがあるかもしれないけど。
見ず知らずの人間を信じるほど、甘くもなれないしね。
浩平さんや瑞佳さん七瀬さん。確か見覚えがある。
探そう、この人達を。
それ以外の人には、絶対に見つからないように行動しましょう。
私には、武器がないのだから――)
数秒で今後の方向性を決める。
そんな自分の思考に違和感を感じることは、なかった。
続いて周囲の木々を見渡し、そのうちの一つに近付いた。
(こっち側だけに苔が生えている……ということは、太陽の当たらない北はこっち……)
方角を特定し、木々の間から覗く太陽を見た。
(この季節でこの太陽高度。
時刻は3〜4時ってところかしら)
ある程度の目安をつける。この間、わずか10秒。
荷物から地図を取り出し、林の場所と島の位置関係を頭にたたきこむ。
(さ、そろそろ行こうかしら。
浩平さん達、無事だといいけど)
現在位置と時刻を特定してから、荷物を持って立ち上がった。
(それにしても……私ってこんなキャラじゃなかったわよね。
このキノコを食べたから? そうとしか思えないけど、非現実的すぎるわよ。
とにかく、効果が切れることもあり得るから、大事にとっておかないとね)
【セイカクハンテンダケ 残り4つ】
【繭 性格反転】