剣風


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「あ、来た来た、やっと戻ってきたわよあのアホ」
辛辣な口ぶりとは裏腹に大きく手を振る七瀬。
「もう、そんなこと言うとまた喧嘩になるよ〜」
苦笑を浮かべ共に浩平を迎える瑞佳。

この劣悪な環境下においても。
3人寄れば心強く、そして平和な日々と変わらず生きていける。
そんな七瀬と瑞佳の前に。否、背後から災いは襲いかかってきたのだ。

「きゃあっ!」
「ぅわっ!」
無防備に立っていたところを、腰に強烈な蹴りをくらい吹き飛ばされる瑞佳。
巻き込まれる七瀬。
ズドン!!
そして銃声。
何が起こったかわからない。しかし、そこにいる人物は危険だ。
七瀬は瑞佳に巻き込まれ倒れながらも、その人物を視認していた。女。
あの大きな銃を撃った!?折原は無事!?

心配する余裕はなかった。
撃つなり女は銃を振り上げ-----叩きつける気だ!
「ふざけんじゃないわよオバサン!」
咄嗟に手にあったタライを投げつけ、混乱と痛みで行動不能に陥っている瑞佳を
どけて転がる。
手近な枝を拾い、素早く立ち上がる。
女は弾を装填している。今、戦わねば全員死んでしまう!

間合いは三歩。
そう、今なら「間に合う」。
七瀬は現在の乙女チックな外見に扮する以前は剣道をやっていた。故障がなければ
未だトップクラスだろう。この間合いなら普通の人間に負ける事はない、はずだ。

「せやッ」
鋭く踏み込み顔面にフェイントをかけて脇腹を痛打する。
計算外の反撃に女は顔を歪ませる。
しかし、装填は完了している。引き金を引かせちゃいけない。
休んじゃいけない。休めない。
浩平が来るまで-----浩平が無事なら、だけど-----休まない。
手打ちで構わない、とにかく早く打ち込む。
しかし女は銃身で受け止め、かわし、時折打ち込んでさえくる。
この距離ならば私が優勢。けれど一度離れれば御仕舞い。

私は、この女に勝てるのかしら?
ブランクが七瀬を弱気にする。
「う、ううーん」
背後で瑞佳の声がする。
そうだ、少なくとも瑞佳だけでも逃がさないと。
折原は何をして、いやそもそも無事なの?
ガキン、と音を立てて枝と銃身が交差する。互いにぐぐっと力をこめる。
「瑞佳!折原のところへ走って!」
振り向かずに、視線は女のほうに向けたまま叫ぶ。
「な、七瀬さん!」
「早く!早くあのバカ呼んできて!」
いつもだったら呼ばないでも現れて、おせっかいかますあのバカ。
今、乙女のピンチに現れないで、どうするって言うのよ?

「う、うん!」
瑞佳の走り去る音がする。
-----これって、また貧乏くじ引いてるのかしら?
七瀬は今更のように、そう思った。
でも、構わない。アタシだけ生き残っても、それでどうするっていうのよ?

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