その頃綾香は……


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「………まいったわね……」

――あとで山を降りたところで落ち合いましょう!! 絶対来るのよ!――

自分の言葉を思い出し、それを強く信じる。
だが、いつまでたっても彼女達は来ない。
「今ごろ何やってるのかしら……」
最悪の結果を考えないようにしながら綾香はひとりごちる。

山のふもとのそれほど深くない洞穴……
危険を避けるために、芹香達を探す時外に出る以外はここに隠れ潜んでいた。
「この島にまだこんな所が在ったなんて……まあ、感謝しなきゃならないのかしら?」
綾香の足元に倒れたまま動かない一人の女の子。
仲間と散り散りになった際、綾香はリアンだけを連れてここまでやってきた。
リアンの容態は、正直よくない。
それほど深くないはずの傷だったが、少しずつ傷口の周りが変色すると共に、
生きているのが不思議なくらいの高熱に見舞われていた。
「毒でも――塗られていた……!?」
綾香は残り少ない飲料水を手持ちのハンカチに染み込ませる。
南の手裏剣を思い出す。
今確かめる術はないが、それならば今のリアンの症状も合点がいく。
たっぷりと水を含ませたハンカチでリアンの汗を拭き取り、そのまま額にそれを乗せる。
「そうだとしたらどんな毒なのかしら……」
見よう見まねだが、リアンの腕の傷口から上を、手ごろな布できつく縛る。
――手ごろな布…そんなものが洞穴にあるはずもないので、
綾香のスカートを破りとっただけの代物だ。結構丈夫なのが救いか――
「解毒剤……そんなものが都合よくあるはずもないか……。
私、なんて無力なんだろう…こんなとき格闘技なんてなんの役にも立たないじゃない…
スフィー、舞さん達…そして姉さん、早く来て……!!」
葵は、もういない。綾香の絶望と不安は既に頂点に達していた。

綾香はまだ知らない。舞が、そして佐祐理がもうこの世にいないということを。

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