×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

形而下の戦い〜漸行〜


[Return Index]

ざわつく……。
木々が、風が、空が。
これは闘いの前奏とも言うべき戦慄だ。
それを、いつの頃からか僕は知っていた。


ふたりはその場に座って、少しの休息とも言える時間を過ごしていた。
「え〜、これが武器なの?」
「そうさ、まあもっとも、これで直接人を傷つけるには……、
 角のところで思いっきりぶん殴るくらいしかないかもしれないけどね」
少年は”本”を持ったまま、さっき手渡されたパンを口に入れた。
「む」
詩子は少年の行動を見て、自分が何をしていたのか思い出したようだ。
いそいそと鞄の整理に戻る。
「じゃあ、こっちの鞄に入れるよ〜」
「あ〜、うん。ありがとう」
詩子はその返事を聞いてから、もう一つの鞄に手を伸ばした。
「こっちの方もなんだか空だね……、あら?」
詩子が鞄の奥底に何か見つけたようだ。
「これは……写真かな、ほら」
詩子は薄い紙切れのようなものを差し出した。
なるほど、確かに表面処理がされてるようで写真には違いない。
少年は手に持っていたパンを全部口に入れて、空いた手でその写真を受け取った。
これは――。

何か……、建物が写っている。
やけに巨大で、それでいて鋭角的に聳え立っている。
その建物をバックに。数名の人間が集まっている。
さしずめこれは記念写真なのだろうか?
全員見たことの無い顔――いや、一人を除いてか――だった。
真ん中には少し背の高めの青年と、小さな少女――郁美ちゃん――が
寄り添って立っている。
瞳に強い輝きを秘めた、何かを成し遂げた男の目だった。
それを取り囲むように、ポニーテールの女の子が、緑髪でギザギザメガネ、少し危険な
笑みを浮かべた青年の横に、複雑そうな表情で立っている。
その隣では、なにやらゲームか何かの格好をした女の子が、エプロン姿の小さい女の子とメガネにデニムの服を着た女の子と楽しそうに笑い合っている。
そうかと思えば反対の方では、なにやらちょっと豪勢なコートを着た女の子と、
赤い上着にメガネ、なおかつハリセンまで装備した女の子が、おとなしげに佇んでいる
もう一人の女の子をはさんで、激しく言い争っている。
脇ではやたら体格がいい学ランを着た男と、穏やかに微笑んでいるなんだか……
インカムやら一揃えの制服のようなものを着た女性が立っていた。

200X年X月X日 こみっくパーティーにて

「……何かのイベントの後みたいだね」
横から写真を覗き込んでいた詩子がそう言った。
「そのようだね……」
「へえ、なんだか皆楽しそうだね」
本当にそうだった。
すこし揉みくちゃにされてはいたが、その写真からはなんだか溢れんばかりのパワーを
感じた。
そう。まるでいても立ってもいられないほどに。
この写真の彼らは今を全力で生きていたのがよく分かる。

在りし日の……、姿とでも言うのか。
少年は涙が出そうになる自分を、一生懸命堪えた。
「どうしたの?」
詩子は、今度は少年の顔を覗き込んでいた。
「…………いや」
少年はあさっての方向を向いて言った。
「ちょっと……、まぶしかっただけさ」
「?」
詩子は不思議そうな顔をした。
生きることは……、こんなにも輝いていたんだな。

……、

…………、

……………………。

!?

少年は急に振り返った。

「え……、何? どうしたの?」
荷物を詰め終わった詩子が言った。
「今……、銃声が聞こえなかったかい……」
詩子のほうを振り向きもせずに少年は言った。
「私にはぜんぜん聞こえなかったけど……、聞こえたの?」
「…………」
少年は応えない。
ごくん。
生唾を飲み込む音。
はたしてそれは少年のものだったか、それとも少女のものだったか。
「……いってくる」
「え?」
少年は本を片手に立ち上がった。
「君は……、ここで待っていろ。もし誰か来たのを感じたらたとえだれが来ても
 すぐに逃げるんだ」
整理された鞄を持って、少年は道の向こうへと行こうとする。
「ま、待ってよ」
詩子もいそいそと立ち上がった。
「ダメだ、来ない方がいい。もし誰かが戦っていたら、それに巻き込まれる」
「で、でも」
「ここなら見通しもいいし、君の足ならたとえ誰が襲ってきても逃げられる。
 だから……」
ドドン!
少年にだけ聞こえた、遠くの銃声。
「……もどってくる、なんて甘いことは考えない方がよさそうだな」
少年は笑顔を崩した。
――ひどく、めずらしいことに思えた。
「君も行くんだ、君には大事な友達がいるんだろう?
 だったらこんなところでグズグズしてちゃいけない」
詩子は、ぼーっとしたようすでその場に立っている。
「ありがとう、君に会えてよかった。縁が合ったらまた会おう」
少年はくるっと振り返り、そのまま走り去っていった。
「そ、そんな……」
詩子には、ただ呆然としていることしか出来なかった。

[←Before Page] [Next Page→]